臙脂色の時代

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「俺が描いてほしいのは、あーいう立派なやつじゃないんだ。指名手配書みたいなやつ。だから、馬鹿でかいモン持ってくる必要はない」 「か、かしこまりました」  フリッシュが壁にかけてある姫の肖像画を指差すと、宮廷画家はぺこぺこと何度も頭を下げて部屋を出ていった。 「人を探しているのか……?」  今まで黙っていた国王が、おずおずと口を開く。 「テメェには関係のないことだ」  フリッシュは葉巻を吸おうとポケットを漁るが、もう1本もない。舌打ちをすると、国王を睨みつける。 「おい、ここに葉巻はねーのか?」 「ない」  国王が短く答えると、フリッシュは再び舌打ちをする。それを見たイディオは下っ端数人に耳打ちをした。下っ端達は小声で2,3言葉を交わすと、部屋を出ていった。  下っ端とすれ違いに、スケッチブックを抱えた宮廷画家が戻ってくる。 「おう、来たか。そういやお前、よく顔を合わせていたな。俺達の仲間、ソティラスの顔を覚えているか?」  フリッシュは宮廷画家の顔をまじまじと見ながら聞くと、宮廷画家は何度も頷く。 「えぇ、えぇ、覚えていますとも。少々お待ちを」  宮廷画家はいそいそと筆を走らせると、フリッシュに見せた。スケッチブックに描かれたのは、微笑を浮かべたソティラスだ。宮廷画家なだけあって、本人とよく似ている。 「よく描けてるじゃねーか。下っ端兵士がどっかで人を集めてるはずだ。その絵を配って探させろ」  宮廷画家は目線を宙にさまよわせながら口を動かすと、フリッシュに向き直って返事をし、いそいそと部屋を出ていく。  数分後、下っ端達が戻ってきてフリッシュに葉巻を手渡した。銘柄はフリッシュが吸っているものと違うが、フリッシュ本人は吸えればなんでもよかった。 「気が利くな。そういやお前ら、腹減ってねーか? 朝はまともな飯を食えなかったからな」  フリッシュの問いに、それぞれ腹をさすりながら空腹を訴える。フリッシュは違う下っ端達を手招きした。 「今度はお前達がお使いに行く番だ。料理人を脅して、人数分の飯を持って来させろ。毒を盛ったところで、死ぬのは国王サマだけだってちゃんと伝えろよ」 「おう!」  下っ端達は返事をすると、料理人を探しに部屋を出た。
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