臙脂色の時代

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ベルメリオ国王が変わって初めての朝、使用人が恐怖に震えながら国王の寝室のドアを叩く。 「国王様、朝食をお持ちしました」 「入れ」  部屋に入ると淫靡な匂いが立ち込め、軽いめまいを起こす。ワゴンを押してベッドに近づくと、女性と少女が裸のまま、ベッドの上でぐったりしている。使用人には、そのふたりに見覚えがある。同じく使用人をしている親友の妻と娘だ。親友の妻子にご無体を働いたこの男に仕えなくてはならないと思うと、気が狂いそうだ。  叫びたくなるほどの恐怖を抑えながら、サイドテーブルにスコーンや紅茶を並べていく。 「これが朝食だ? 笑わせんな。こんなのただのおやつだろ。肉を持ってこい。朝昼晩全部肉だ。野菜はいらねー。いいな?」 「は、はい……! 今すぐ用意させます!」  部屋を出ようとすると、窓際から小さなうめき声が聞こえた。何事かとそちらを振り返ると、窓際の下で親友が嗚咽をこらえながら震えている。自身を抱きしめる腕や顔には、いくつものアザがある。きっと愛する家族を守ろうとしたのだろう。  使用人は大股で廊下に出ると、窓を開けて胃の中を吐き出した。 「ふざけやがって……」  汚れた口元をぬぐうと、使用人は歯を食いしばり、覚悟を決めた。  国王の食事に毒を盛ろう。あの男を生かしてはいけない。  本来ならおぞましい行為だが、今回ばかりはこの案を思いついた自分を褒めてやりたいと思った。あの男が死ねば国も親友も救われる。あわよくば、自分は英雄になれる。  考えただけで心が浮き立ち、使用人は軽い足取りで厨房に向かう。  この使用人は知らない。フリッシュ達が永遠の命を手に入れたことを。毒など持っても、無意味であると。  何も知らない使用人が毒を盛り、抹殺されたのは言うまでもないだろう。  朝食を終えると、フリッシュは昨晩抱いたふたりの女とその旦那に部屋の片付けを命じ、会議室にアストゥトを集めた。 「今からカエルレウスに行く。向こうでソティラスが見つかってるかもしれないからな」  フリッシュの言葉に、イディオは難しい顔をする。
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