救世主

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救世主

 臙脂色の時代が始まって200年。ベルメリオは活気を失い、民は死んだ目をして生きている。カエルレウスは平和だが、ソティラスという会ったこともない青年を探すために生きている。  他国はこの2国に関わらないようにしながら、なんとか生き残っていた。  フリッシュが寝室で昨日連れ去った女を抱いていると、執事が慌てて入ってきた。 「国王陛下、大変です!」 「今忙しいんだ、見て分からないか?」  フリッシュは女の髪を掴み、執事に見せつけるように自分の上に座らせた。執事はフリッシュの横暴さになれているのか、女を無視して報告を続ける。 「青い鎧を着た兵士が、城に侵入してきました!」 「青い鎧だぁ?」  フリッシュは女を床に転がすと、鈍い頭を回転させる。青といえばカエルレウスのナショナルカラーだったが、100年前にベルメリオと合併させ、向こうの鎧も赤になった。青い鎧など、今は存在しないはずだ。 「よく分からねーが、行ってみるか」  フリッシュは壁にかけてあった服を着て剣を携えると、寝室を出る。その後ろで執事が女を抱きかかえ、介抱する。 「で、その侵入者ってのはどこにいるんだ?」  執事から聞けばよかったと後悔するも、寝室に戻るのは面倒に思えた。宛もなく歩いていると、トントの大きな背中が見えた。 「トント、ちょっと聞きたいことが……」  すべて言い終える前にトントは悲鳴を上げ、砂となって崩れ落ちた。床には大量の砂とトントの服だけが残る。  小さな砂山の向こうには、青い鎧を纏った者が立っている。俯いていて顔は見えないが、その鎧に見覚えがある。200年前のカエルレウス兵の鎧だ。右手には氷のように透き通る、美しくも不思議な剣が握られている。 「どうなってやがんだ?」  トントの死と昔の鎧に、頭が疑問符でいっぱいになる。 「お久しぶりです、フリッシュさん。随分と、変わってしまいましたね……」  青い鎧が、顔を上げる。長年探していたソティラスが、悲哀に満ちた目でフリッシュを見つめている。 「ソティラスお前、どこにいたんだよ? ずっと、ずっと探してたんだぞ!」  フリッシュは手を伸ばし、トントだった砂を踏みつけながらソティラスに近づく。 「多くの人を殺しながら?」  静かな怒りがこもったソティラスの声に、フリッシュの動きが止まる。 「僕は、あなたに感謝していました。ひとりになった僕を家族と呼び、殺しを強要しないあなたに。無駄な殺生をしなかったあなたに。強くて優しいフリッシュさんに、僕は憧れてた……」  瑠璃色の瞳から涙が零れ落ちる。フリッシュはソティラスの涙に動揺する。
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