紫戦争

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紫戦争

 数百年前のこと。国境にある荒野で、赤の鎧と青の鎧が砂埃を立てながらひしめき合っている。幾多の怒声が響き渡り、幾多の血が流れる。  敵対関係であるベルメリオとカエルレウスが、戦争をしているのだ。  元々あまり仲が良くない両国だが、戦争をするほどではなかった。せいぜい互いの貿易を法律すれすれで邪魔をする程度。それがなぜ戦争に発展したのか?  ベルメリオ建国記念日の朝、いつも1番に起きてくる姫がなかなか顔を出さない。国王が召使に起こしに行くように命令し、召使が命令どおりに姫を起こしに部屋に入ると、彼女は血を吐いて死んでいた。  色々調べてみると、姫の水差しから毒が見つかった。水差しを持ってきた使用人に疑いが向けられる。  この使用人が自国の民なら彼を処刑して終わったのだが、不幸なことに使用人の出身国はカエルレウスだった。 「ベルメリオ建国記念日に姫を毒殺だと!? これはカエルレウスの宣戦布告だ!」  誰かの怒声を真に受けた愚かな国王は、カエルレウスに戦争をけしかけた。元々戦争が好きな国王は、いつかカエルレウスを潰してやろうと考えていた。だが、今までは戦争をするほどの理由もなかったので、大人しく小さな嫌がらせを続けていた。そんな彼にとって、愛娘の死は戦争をけしかけるのに十分すぎる理由だ。  そして現在、こうして赤い鎧を身にまとったベルメリオの兵士達と、青い鎧を身にまとったカエルレウスの兵士達が国境の荒野で戦いを繰り広げているのである。  そんな彼らを、4人の男達が崖から見下ろしていた。 「おーおー、派手にやってるねぇ」  ガタイのいい30代の男は、ニヤニヤしながら彼らを眺め、何を思ったのか崖の下に唾を吐く。彼の名はフリッシュ。ベルメリオに雇われた傭兵団、アストゥトのリーダーだ。 「あいつら、戦争ごっこに夢中で、唾かけられたことにも気づいてねーぜ」 「冗談のつもりか? 笑えないぞ、フリッシュ」  細目の男、イディオが細い目を更に細めてフリッシュを咎める。そんな彼の肩に、大きな手が置かれる。 「お前よぉ、もーちょいリラックスしろって。なんだ、緊張しいか? そんなんじゃ生き残れるモンも生き残れねーよ」  豪快に笑いながらイディオの背中をバシバシと叩く大男のトント。イディオは大きな手を振り払うと、トントを睨みつけた。 「こいつらは命をかけて戦ってんだぞ? 殺しはしても、そういった行動は控えるべきだって言ってるんだ」 「なんだよ、いっちょ前に騎士道精神でも持ってんのか? そんなモン捨てろって。俺たちゃならず者の傭兵団だぜ?」  フリッシュが大声で笑って葉巻に火をつける。そんな3人を、ひとりの青年が無感情な瞳で見つめていた。服装からして彼らと同じ傭兵だというのは分かるが、彼らと違って荒々しさがまったくない。
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