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「アストゥトのリーダーも、これでおしまいだな」
「お前は調子に乗りすぎたんだ。このまま死ね!」
彼らの言葉で、ワインボトルが脳裏にチラつく。
(そうか、やたら気が利くと思ったら、そういうことかい……)
ワインに毒が盛られていたことと、彼らがベルメリオ兵であると悟った瞬間、背中に叩きつけられるような感覚が走り、少し遅れて痛みが襲いかかる。
「ぐっ! かはっ……!」
喉奥が潰れる感覚が拭えず、悲鳴もまともに上げられない。死が脳裏をかすめるが絶望感などはなく、仕方ないと思いながら瞼を閉じる。
その代わり、ソティラスの寂しげな顔がフラッシュバックした。
(また、アイツをひとりにさせちまうのか……。居場所になってやるって言ったのに、情けねぇ……)
自分の不甲斐なさに呆れ返ると、体が軽くなった。何事かと目を見開くと、視界がはっきりしていることに気づく。フリッシュ達そっちのけで戦っている2国の兵士達、フリッシュを見下して嘲笑っているふたりのベルメリオ兵、戦場で滅多刺しにされた仲間達……。
「こんなことになって、後悔はないのか?」
まるで体中に這い回るようなおどろおどろしい声に振り返ると、異形の者が立っていた。背は2mと高くとても細身だが、生理的嫌悪するような容姿をしている。
深緑色の髪はボサボサで膝まで伸び、頭には倒れてしまわないかと思うほど太くて立派な牛角がある。肌は薄緑色で、目は大きく見開き、殺意や憎悪などでギラギラしている。ニタリと歯をむき出しにして笑い、体中ツギハギがある。
「な、なんだよ、あんたは……」
これには怖いもの知らずのフリッシュも慄然とする。
「そう怯えるな。私はお前に力を与えてやろうと思って、こうして姿を現してやったのだ」
「力……?」
フリッシュが言葉を繰り返すと、異形の者は更に笑みを深めた。不自然なほどに真っ赤な歯肉に、思わず後ずさる。
「そう、力だ。お前は、このまま死んでもいいのか? 毒を盛った連中に、毒を盛るように命じた国王に、復讐しなくていいのか? このままだと、仲間もお前も死ぬぞ」
「もう、死んでるだろ」
「だからなんだというのだ?」
異形の者の言葉に、耳を疑う。まるで死などものともしない、とでも言いたげな疑問符に、淡い期待を抱いてしまう。
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