紫戦争

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「死んだら、それでおしまいだ……」 「それはお前達人間や生物の話だろう? 私はお前達と違う。どうだ、こちら側に来てみないか?」  異形の者はツギハギと薄汚れた包帯で醜い手を差し出した。もし生き返ることができるというのならこの手を握ってもいいと思うが、彼の言葉の真意がまだ掴めていない。 「俺には学ってモンがまるでなくてね。俺みたいなバカにでも分かるように言ってくれないか?」 「いいだろう。私はお前達に永遠の命をくれてやる。つけられた傷は即座に塞がり、手足を切り落とされようが、胴体を切り離されようが、すぐに戻る。心臓を貫かれようが、死ぬことはない。もちろん、痛みもない」  異形の者の言葉は恐ろしくも魅力的で、気がつくとフリッシュは、彼の手を取っていた。 「分かった、お前達を生き返らせ、永遠の命を与えよう」  異形の者がニタリと笑った瞬間、フリッシュの中でいくつもの疑問が湧き上がる。”永遠の命を得るのに代償はないのか?” ”離れたところにいるソティラスはどうなるのか?” ”俺達に永遠の命を与えたところで、お前に得はあるのか?”  他にも様々な疑問が湧き出てきたが、視界が真っ白になって思考が遮断された。  次に思考が戻ると、ベルメリオ兵の耳障りな笑い声や戦争特有の喧騒が聞こえてくる。背中から腹にかけて違和感があった。 (そうだ、俺背中からブッスリいかれたんだっけな)  他人事のように考えながら、背中に腕を回す。 「うぅ……」  まだ毒が効いているのか、一瞬めまいがする。だが、それは大した問題ではない。背中に刺さった剣をつかむと、手の平に刃が食い込む感覚がする。だが、痛みはまったくない。  引っ張ってみると剣が傾き、腹の中がえぐられるが、むずがゆいと思うだけでこちらも痛みはない。 「ん? うおおぉっ!? こ、こいつ、なんで……」 「ど、どうなってやがんだ!」  視界の隅に、尻餅をついたベルメリオ兵が見えた。彼らのマヌケ面を笑うと、手で剣を抜くのが面倒くさくなってそのまま立ち上がる。すると剣は重力に従い、そのまま抜け落ちた。  手の平を見ると、傷は逆再生でもしているかのように消えていく。見えはしないものの、内臓や背中も、徐々に塞がっていく感覚がある。 「さて、たっぷり礼をしてやんなきゃな」 「ひっ……!」  フリッシュがバキボキと手を鳴らしながら距離を縮めると、ベルメリオ兵達は尻餅をついたまま後ずさっていく。
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