夕日が綺麗ですね。

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時雨がそんな事を思っているとは露知らず、一正はあらゆる場所を探し回っていた。  「どこだ……?」  だが、人の痕跡すら見当たらない……  (どこだ……教室、裏庭、屋上、踊り場、寮内、食堂、風紀委員室、職員室、学園の門前……………………)  「どこにいるんだ!!!」  散々、歩き回って疲れたので壁に寄りかかると………  「あ……」  初歩的な場所をすっかり忘れていた………  「保健室だ………」  居なければ、ついでに休もうといった心持ちで、保健室の扉を開ける。  すると…………  「こいつ…………」  そこには、傷だらけの濃い赤髪をした、ヤンキーの風貌をした男が眠っていた…  「スゥ…スゥ…」  (子供みたいな寝顔だな……)  自然に顔が近づいていく、  パチッ  「!?」  途端に今までスヤスヤと眠っていたそいつが、目を開けた。  驚いて、飛のくとそいつは、まだ眠たげな顔でゆっくり体をあげた  「……………………誰だ……」  そいつはそう言うと、こっちを向いた。  (あっ…………)  すると、窓から差し込む陽の光がそいつの顔を照らしている。  (意外と、まつ毛長いな……)  さっきの一瞬では気付かなかった細部までよく分かる。  (目も、なんだか不思議な色だな…… 青みたいな…灰色みたいな……)  それに、切れ長の目に目鼻立ちもはっきりしてて、肌も綺麗………  (男らしい顔をしているはずなのに、 天使のようだと思うのはなぜだろうか……)  「おい、なんとか言えよ」  「………………綺麗だ………」  「は?」  「あ……」  ま、間違えたーーーーーーーー!!!!  「い、今のは間違えた!忘れてくれ!!」  顔が赤くなっている自覚をもちながら、酷い弁解をする。  「はぁ、別にいいけど。 変な奴だな…………」  「そ、そうか…」  それから、気まずい沈黙が流れる。  「で?」  「へ………?」  いきなりの事に、変な声が出た。  「いや、へ?じゃなくて 俺は誰だっ聞いてんだけど」  「あ、あー!そうか!そうだった! すまない!」  「………やっぱ、変な奴…」  俺はそんな囁きには気付かず話す。  「お、俺の名前は那之原 一正だ。 今年から風紀委員長になった」  「あー、あんたが……」  「ん?なんのことだ?」  「いや、こっちの話し。 俺は蛇島 神楽(さしま かぐら)…好きに呼べ」  「ああ…俺も好きに呼んでもらって構わない」  そう言って、右手を差し出し握手を求める。  しかし…………  「……………俺、人と触れ合うの嫌いなの。 俺に触れられる奴は、俺が作った『基準』に達していると判断した奴だけ。」  そう言うと、蛇島はベッドから降り扉の方へと向かう。 俺はどのくらいそこに立ち尽くしていたか分からないが、とにかくずっとそこにいた気がする。  ブーー、ブーー    「!…で、電話か……」  画面を見ると時雨からだった。  「俺だ。どうした?」  『どうした?じゃありませんよ。 どこにいるんですか? かれこれ、1時間経ってますけど』  「そ、そうか。すまない。今すぐ、帰る。」  『そうして下さい。風紀委員室で、待ってますので』  「ああ、出来るだけ急ぐ」  そう言って、電話を切る。  風紀委員室に向かいながら考える。  自分は何故あの時蛇島を引き止めたのか  何故蛇島の嬉しそうな顔を見て、自分も嬉しくなったのか。  (分からない…)  あの時引き止めなかったら、こんな変な感情を持つこともなかったのに……  何故だろう………  さっきから疑問しか浮かばず、答えなんか見つからないどうどう巡り。  (ああ、それでも……)  (アイツを、蛇島のことを…)  「…………もっと…………知りたい。 蛇島の気持ちが……知りたい」    そして、何よりの疑問は………  蛇島神楽という男が、頭からこびり付いて離れないのは何故だろう 夕日が綺麗ですね。   =貴方の気持ちが知りたいです。
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