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私が研究していたのは、タイムマシン。時間の流れに縛られてきた人類が夢見てやまなかった装置である。私は、軍の傘下組織の一員としてその研究に取り組んでいた。傘下というには規模も目的も大きすぎたのだが、私はその中で少しばかり上の地位にあり、人々に博士などと呼ばれる立場であったというわけだ。
そして、血のにじむような努力の果てにタイムマシンは完成した。しかし、この人類史に残る偉業は計画の段階から既に完全に秘匿され、それに見合う賞賛を受けることは決してなかった。その理由をかつての核兵器開発と同様に軍事戦略的な役割が大きすぎるから、という風に類推する事は簡単だが実際はそう単純ではない。
そもそも我々は人類の大願の半分を叶えたに過ぎなかった。そのタイムマシンは一秒たりとも過去に行くことはできず、過去から未来へと行くことしか出来なかったのだ。残念ながら、その逆を実現するにはアリ一匹を一秒過去に送るのに人間がこれまでに消費したのと同じだけのエネルギーが必要だという試算がされていた。この時点で軍事的な価値はほとんどなくなる。どうなっているかわからない遠い未来に投資することなど、国家的なプロジェクトとしてはあまりにもナンセンスだ。いわば百年後のある日に雨が降ると予想して傘を未来に送る装置を作るようなものだった。
しかし、実際に私の国では大金を投じてこの装置を開発したのだ。表向きは、といっても国民にとっては裏の話なのだが、前述のような軍事戦略の一環という名目を冠していた。だが、それがある一人のための極めて自分勝手な欲望のためであることは研究所内では暗黙の了解であった。そして、それはタイムマシンの使い道として考えうるものの中で最悪のものであった。
自らのためにタイムマシンの開発を決定したのは、長年にわたって大国を支配し続けた独裁者だった。彼の名前はあなた方の歴史に記されていることだろう。おそらく負の歴史の中に。
ということは我々もその野望に与した悪人だということだ。しかし、私を含めて研究員はみな普通の人々より深く夢を見ていただけなのだ。子供時代の純粋な夢を。だからといって、その筆頭である私が許されるなどとは思っていない。独裁者の伸ばした大きな手の暗い影に入った時点で我々の夢は悪夢と化していたのだ。私は目を覚まさなければならなかった……。
完成から十数年前、彼が秘密裏に開発を命じたとき、彼の帝国は世の春を謳歌していた。誰もが国の行く先は安泰だと思っていた。しかし、いち科学者の私に国家元首の考えを理解すべくもないが、このような計画を立てた彼の心中にはそんな荒唐無稽な計画を立案するだけの何かがあったのだろう。当時まだ若かった私も組織に雇い入れられ、計画に携わることになった。その中で私は薄々この計画の本当の目的を理解し始めた。それは、タイムマシンを究極のシェルターとして利用することであった。
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