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そこは大都会の谷間などではなく、地獄だった。空に太陽の姿はなく、妖しい煙が立ち込めていた。あっという間に生ぬるい灰混じりの空気が押し寄せた。私はめまいがし、咳き込みかけたが、そこが彼の唯一の隙だった。
私はあっけに取られて前を見つめる独裁者の背中を見据えると渾身の力を込めて、タイムマシンの外へと彼を蹴り落とした。そして、開けたばかりのハッチを閉めた。アラームが鳴る中、閉まる直前のわずかな隙間から彼の驚愕に固まる顔が見えた。
私は、コントロールパネルを操作し、再びタイムマシンの行き先を設定した。それは本来の目標である百年後だった。我々はまだ夜の十二時から昼の十二時へと半日タイムトラベルしただけであった。地獄は彼自身が作り出したものだったのだ。その後、彼はそれまでの行いに対するささやかな報いを受けただろう。
それから、ずっと長い時間を渡る二回目のトラベルも同じようにあっという間に完了した。今度は一回目のような感慨を覚えることもなかった。体も心も疲れ切っていた。
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