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影ではっきりとしないが村の人間でないことだけは確かだった。
男はこっちへゆっくりと近づいてくる。
仲間達は息を殺してじっと男を見ていた。
「誰だあ」
「知らねえかっこうだ」
ささやき声が仲間内から聞こえる。
仲間の結束は固く、よそもんはあまり歓迎されない。男が近づく度周囲に緊張が走った。
「若えな」
姿がはっきりとする位置まで男が来ると、村の仕切りのタケさんがぽつりと呟く。
男は確かに青年とも呼べる程の若さだった。
ひょろりとした背丈と痩せた体が長い影を伴っている。
仲間達が警戒しているのを感じてか、数歩離れた場所で足を止めた。
そうして軽く頭を下げると困った顔で笑う。
男も自分が警戒されているのを感じているようだった。
「あ、あのう──」
「なんか用か」
ためらうような男の細い声を遮るようにタケさんが鋭く訊いた。
他の仲間も静かに様子を見ている。
「あ、いえ、そのつ、妻を」
男は声を裏返らせながらも話すが途中で言葉を止めてしまった。仲間達は首を傾げ顔を見合わせる。
タケさんが無言で続きを促す。
「つる、いえ、妻を探していまして」
「つまあ?──ああ逃げられたんか」
男の頼りない様子を見やり、タケさんと仲間達がうんうんと納得すると、男は肩を落としあきらめたように肯定した。
男は早口に状況を説明したが、タケさんは軽く首を横に振ると冷たく
「知らん」
と吐き捨てて男の脇を通りすぎた。
男は聞いたこともない遠くから妻を探しに来たらしい。
ただ言っていることが所々おかしく、仲間達は関わらないことに決めたようだった。
タケさんにならって男の脇を皆が通りすぎる。
緊張から脱したせいか仲間達は明るかったが男はすっかりうなだれていた。
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