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いろり火が赤々と燃えている。
有り合わせで作られた夕飯の残りがその上でフツフツと煮えていた。
横にはカカさんと男が座っている。
男は持っていたお椀を下ろすとオラに向かって改めて頭を下げた。
「本当に助かりました──ありがとうございます」
男が頼りなさそうに笑っている。オラは視線を反らすと別にと返した。カカさんは楽しそうに笑っている。
道で会ったよそもんをオラは家に連れて来た。
仲間達の冷たい視線と心配そうなヤジさんの顔が頭に過り、あわてて頭を振る。
明日からのやりづらさを考えて、考えたがどうしても男を見捨てられなかった。
「似ってからかねえ」
カカさんがコッコと笑いながらそう言った。オラも小さく頷く。
男だけが不思議そうにしていた。
そんな男を優しく見つめて、カカさんが夕飯の残りを椀に入れてやる。
落ち着いた頃に話の続きを促すと男は恥ずかしそうに口を開いた。
「私は妻との約束を破ってしまいました」
男はそのせいで妻を逃がしてしまったそうだ。なんでもその妻は鶴に姿を変えて、西の方へ飛んでいってしまったそうだ。
男は驚きのあまり数日程いつも通り過ごしていたが、やっぱり妻を愛していたと気がついたらしい。
「手掛かりは鶴と西の方角だけなんですが、どうしてもあきらめられず──誰も信じてくれないのですが仕方がないですね」
と軽い口調で話を終わらせた。目だけが男の決意が真剣だと訴えていた。
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