二度と君を忘れない

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そして翌日を迎えたんだけど。 「しんどい…。身体が重い…。」 どうやら高熱を出してしまったみたい。主治医に今日は一日部屋でゆっくりするようにと言われたから、今日の謁見は中止になった。え、それじゃあアリスに会えないじゃん!僕、明日になったら記憶がなくなるんでしょ?なら何としてでも今日会って話さないと!…でも流石に公爵令嬢を、皇太子とはいえ風邪ひいて寝込んでる人の側にはおけないか。いや、ダメ元で頼んでみよう。 「あの、無理なら無理で良いのだがシャルム公爵のアリス姫を呼んできてくれないだろうか?」 近くにいた侍従に頼んだんだけど…。当然断るだろうと思いきや、目を潤ませながら快諾してくれた。何なんだ一体…。というわけでそれから一時間程経った頃、アリスが僕の部屋に来てくれた。 「皇太子殿下にお目にかかります。殿下、昨日は大変失礼致しましたってええ?どうなさったのですか?」 挨拶もそこそこにめっちゃ驚かれた。まあ、いきなり自分を呼びつけた当人が寝込んでるとは思わないよな。 「風邪ひいちゃったみたいで…。こんな状態なのに呼んじゃってごめんね。」 僕が説明すると、彼女はなんと…。凄く甲斐甲斐しく看病してくれた。え、嘘だろ?僕は会って話が出来れば万々歳って思っていたのに、看病までしてくれるとは!正直かなり嬉しい。それにしても看病手慣れてるなあ。手ぬぐいがぬるくなったと感じた頃には新しい物と取り替えてくれてるし。それにしても優しい子だ。…ん?さっき僕の体温を測ってくれたときにアリスの腕が見えたんだけど…。凄く痛々しい古傷があった。何故か凄く胸が痛む。 「あの、アリス。その腕の傷、何があったか聞いていい?」 昨日の事もあるから恐る恐る聞くと、アリスは悲しそうに僕の方を見た。 「…殿下のお苦しみに比べればこれしきりのこと、何でもありませんわ。」 え、どういうこと?なんで僕の「苦しみ」と比較する必要がある? 「どういう意味?それに昨日もアリスはいきなり泣いていたよね。一体なんでなの?」 昨日の疑問と合わせて聞いてみたけど、アリスは悲痛な顔こそすれど何も言わない。やきもきする中、いきなり部屋の扉が開いて父上が入ってきた。 「侍従から報告を受けたから様子を覗いてみたが…。ジョセフ、本当にお前自らアリス姫を部屋に呼んだのか?」 父上はなんとも言えない顔で僕の方を見る。 「ええ、父上。聞きたいことがありましたので部屋まで来てもらったのですが、この通り看病までしてくれております。」 僕がこう答えると、心なしか父上の目が輝いたように感じた。でも、しばらくすると元の顔に戻って咳払いをした後、お説教をされた。 「ジョセフ。いくら皇太子とはいえ、公爵令嬢に看病をさせるのは如何なものか。もしも風邪をうつしてしまったらどうするんだ。」 はい、そのお叱りはごもっともです。ごめんなさい。 「申し訳ありません…。」 「本当にもう…。アリス姫、うちの愚息が迷惑をかけたようで申し訳ない。」 父上はアリスの方を向いてすまなそうな顔をする。 「いいえ、迷惑だなんてそんな…。」 「あまり長いこと風邪ひいた人間の側にいるのはよくないから、そろそろ帰りなさい。アリス姫の父君も心配するだろうから。」 え、ちょっと父上!まだアリスとの話終わってないんだけど?まあ正論は正論なんだけどさ…。アリスはしばらく困った顔をしていたが、流石に父上の言葉には逆らえなかったみたいで…。 「…皇太子殿下。正直、まだこちらで看病させて頂きたい気持ちは山々なのですが…。これにて失礼させて頂きます。ゆっくりお身体を休めて下さいませ。」 そう言って部屋から出て行ってしまった。がっくし。 「ジョセフ。アリス姫も言っていたように、今日はしっかりと身体を休めるんだぞ。…もしかしたら今日が正念場になるかもしれないから。」 程なくして、父上も真剣な顔でこう言った後部屋から出て行った。それにしてもアリスについての謎、解決しなかったなあ。というかむしろ増えてしまった。ああ、明日には忘れてしまうというのに…。嫌だ嫌だ忘れたくない、せめてアリスの事だけでも覚えていたい。寝ずに起きていたら忘れずにすむかと思って頑張って寝まいとしていたけど、風邪ひいて体力を消耗してしまっていたのもあって、いつの間にか眠りについてしまった。
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