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その日の夢の中で、僕はアリスと二人で草原でピクニックをしていた。アリスが用意してくれたお弁当を食べてゆっくりしていると、いきなり茂みから大きな野犬が飛び出してアリスを襲った。
「危ない!」
僕が咄嗟に彼女を庇った拍子に、頭を強く打ち付けたところで夢から覚めた。
「アリス!」
僕は目覚めるや否や思わず叫んでしまった。
「皇太子殿下…?」
側にいた侍従が怪訝そうに声をかけてきた。
「ああヨーゼフ、ちょっとよくない夢を見たようだ。」
「皇太子殿下。もしや…記憶が戻られているのではありませんか?」
僕が答えると、彼が感極まった様子で指摘してきた。
「ん、そういえば…。昨日の事も一昨日の事も覚えてるぞ!それだけではない、何もかも思い出した!そうだ、あの時僕はアリスを庇った拍子に、近くの岩に頭を打ち付けて…。」
そう、さっき見た夢は過去実際に起こったことだ。アリスは僕の幼馴染みで、物心ついた頃からよく一緒に遊んでいた。その日も二人でピクニックに行った際に事件は起こって、僕の記憶は失われてしまったんだ。
「皇太子殿下…!何よりでございました。私、国王陛下を始めとする皆様に御報告してきます!」
ヨーゼフという名の侍従は文字通り泣きながら部屋を飛び出した。程なくして、父上やアリスを始め、主だった人が僕の部屋に集結した。
「ジョセフ!記憶が戻ったと聞いたが!?」
「父上、皆さん、長らくお騒がせしました。事故の事も含め、失われた全ての記憶を取り戻しました。」
僕がはっきりと明言すると、父上は僕をガシッと抱いて号泣した。
「よかった…。本当によかった…!」
父上がこれまで見たことのない勢いで泣き出すものだから、僕も一緒になって泣いてしまったよ。そして親子二人の感動の抱擁が落ち着いた所で、僕はアリスに声をかけた。
「アリス、君にも沢山迷惑をかけたね。その怪我、その時の事故でできたものでしょ?大丈夫だった?」
するとアリスは号泣して深々と頭を下げた。
「皇太子殿下、申し訳ありません…!私のせいで、皇太子殿下の記憶がこんなにも長い間失われてしまって…。私、ずっと申し訳なくて申し訳なくて…。なんとお詫びすればいいか…。」
アリスに物凄く謝られたけど、あれは別にアリスが悪かったわけじゃない。
「アリス、泣かないで。あの時の事はただの不運な事故だ。君は何一つ悪くないよ。父上もそう思うでしょう?」
僕が父上に話を振ると、父上も大きく頷く。
「ああ。まさかあんな平穏な草原に野犬が潜んでいたとは思うまい。悪いのは野犬であり、アリス姫はむしろ被害者だ。」
そして、父上はアリスの頭を上げさせて語りかける。
「アリス姫。ジョセフの記憶が戻ったのは君のお陰だよ。本当にありがとう。約束通り君には何でも好きな物をやろう。何がいい?」
しかし、アリスは静かに首を振った。
「何もいりません。私は責められこそすれど、褒められる筋合いはございませんので…。」
いやいや、アリスのお陰で僕の記憶は戻った事は確かなんだから、遠慮なく受け取って欲しいのに…。それに僕、ずっとアリスの事が好きだったんだ。本当はあの時、告白するつもりだったんだけど。うん、思ってたのより三年以上経ってしまったけど、ちゃんと伝えよう。
「何もいらないのなら…アリス、皇太子妃になってくれないかな?僕、ずっと君の事が好きだった。本当はあの時伝えるつもりだったんだ。今後何があっても絶対にアリスを守るから。そして、もう二度と辛い思いはさせないから。」
アリスの目を見て一言一言しっかりと心を込めて言うと、アリスはまた泣き出した。
「皇太子殿下…。私もずっと殿下のことをお慕いしておりました。こんな私で宜しければ、殿下のお側に仕えさせて頂きます。」
ああ、今日は最高の日だ。僕の記憶は戻り、最愛の人に告白を受け入れてもらえた。こんなに幸せなことってあるだろうか。僕とアリスは父上を始めとする周りから祝福されながら互いに抱きしめ合った。
「アリス…。もう二度と君を忘れないから。」
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