黄泉から使わされた使者

1/2
前へ
/7ページ
次へ

黄泉から使わされた使者

この世には3つの世界がある。それぞれ黄泉の国、地獄、下界である。黄泉の国で死後監督責任者の常盤星太は死後裁判に大忙しである。  「このものは金を敵国から受け取り100人もの人を貧困に陥れ虐殺した罪か…」  書類には生前に行った罪が全て記載されており地獄に落とすか否かは裁判官の審査によって決められる。 「よし、部屋に入れ」  やってきたのはいかにも成金趣味な小太りのお爺さんだった。 「どうか、私は悪いことはしていないので天国に行かせてください」 「生前悪いことをした記憶はないのか」  「私は誠実に生きて参りました」とはっきりと述べた。 裁判官を前にして言う言葉は皆同じである。自分は悪いことはしていない。仕方がなかったなど、言い訳がほとんどだ。人殺しや窃盗は言うまでもなく地獄送りになる。また、詐欺をしたものや弱いものから搾取したものは、裁判官の天光によって重量がかかり自然と地獄に堕ちてゆく。 「では判決を下す。其方には地獄への道を命ずる。」 星太が五星を切ると、天光に包まれ小太りの老人は下へと堕ちていった。 「最近はこの手の老人が多いな、下界は腐敗しているのだろうか」 長く伸ばした艶のある黒い髪の毛を白い紐で括り、ポニーテールにすると、次の客がやってきた。 「私死んだんですか?」 15歳ぐらいのおこぼい少女である。身なりは汚いものの、心の光が強く溢れんばかりのパワーを出している。 「そうだが、なぜ死んだことを認識できなかった?事故か?」  書類には彼女の死因は毒殺と書いてある。殺人事件には変わりないがなぜ気づかなかったのだろうか。 「昨日は病院に行き、茶屋で団子を売ってから家に帰りましたがその後は記憶がなくて……」  「魂の検体をする。こっちへ…」 椅子に座らせるとビデオテープのように生前の記憶を見ることができる。 「うん。理解した」 彼はこう告げると五星を描くと彼女のおでこに小さな星が付いた。 彼女は何か悪霊のようなものに取り憑かれた可能性が高い。怪物と言えば人間よりも恐ろしくはない。なぜなら、天界の使者が見つけ処分することになっている。意外と黄泉の国も忙しいのである。残業も多々ある。 星太の場合剣術の強さと光力の強さがずば抜けて高い。前世で死んだ時に黄泉で働かないかと、大天使に腕を買われて裁判官長まで上り詰めた。 黄泉の国では働くという概念が存在しない。皆それぞれ好きなことをやり過ごしている。生前のように腹も減らないし、勉強もしようと思えば天界図書館というこの世の書物全てが保存されているところに行けばできる。大抵の場合、暇になりすぎて10年も経たないうちに転生する。色恋沙汰も無縁になるからだろうか、ここにくると皆性別がよくわからなくなるようだ。皆髪を伸ばし、似たような衣に身を包むことになるからだろうか。    「せいたー!こっちきてー」 大腕を振るって近づいてきたのは、前世では弟だった雪花である。黒い髪の毛に長いまつ毛、彼女も星太と同じく裁判官をしている。昼休憩には剣術の訓練をすると約束してあるから来たのだが…   「もう、夕飯か…」 弟が呼びに来る時は大概飯の時間だ。  書類の束を片付け、引き出しにそっと入れる。最近は残業続きで昼を食べる暇もない。裁判官は人が死ぬかぎりは休めない。しかし、睡眠時間は一応とってある。裁判官から昇進すると天位に着くことができる。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加