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6話「知ってた」
「こちらの御方が光の使者様です、長様。」
スイコさんが連れてきたのは四十代半ばほどの威厳のある男性だった。
水の民の証である水色の髪をオールバックで纏め、切れ長の目でこちらを見定めるように睨んでくる。
「巫女殿、これは・・・・・・ただの子供ではないのか?」
まぁ、当然の反応か。子供ってのも間違ってはいない、というか中身以外は正真正銘の子供なのだ。
不老の身体ではあるが、生まれてから十年ちょいしか経ってないし。
しかし、その態度を見かねたスイコさん。
「坊?」
先ほどまでの優し気な声と変わらないが、スイコさんの迫力に一瞬怯む長。
「だ、だが証拠など無いだろう。」
「光色の御髪を纏われているのがその証拠です。」
「確かに、我らとは違う色のようだが・・・・・・私が納得したところで、それだけで皆が納得するとは思えない。」
「それは・・・・・・・・・・・・そうかもしれませんね。」
長の言葉に考え込むスイコさん。
いきなり子供を目の前に連れてきて光の使者さまだと紹介したところで、はいそうですかと諸手を挙げて喜ぶ人は少ないだろう。
「あ、あの、巫女様! 私は御使い様が全て魔法を使っているところを見ました! みんなの前でもそれをやってもらえば・・・・・・。」
そういえばクアナは俺が使っていた魔法に驚いていたな。
あんなので認めてもらえるなら楽に済ませられそうだ。
「何を言うのですかクアナ! 御使い様の御手を煩わせるわけには参りません!」
「そ、そうですよね、ごめんなさい・・・・・・。」
スイコさんに叱られ、しゅんと項垂れてしまうクアナ。
慌ててその間に割って入る。
「だ、大丈夫ですよ。それくらいでいいならやりますから!」
「ですが御使い様にそのような・・・・・・。」
「私にとっては全然手間じゃありませんから。むしろそれで済むなら、こちらとしても有難いです。」
「ふむ・・・・・・では今ここで見せて頂くことは可能だろうか、使者殿?」
「坊!」
「スイコさん、構いませんから。家の中なので、あまり派手なのは出来ませんけど・・・・・・。」
そう断ってから、指の先に魔力を集め始めた。
指先に溜まった魔力をそれぞれの属性に変換していく。火の灯、水の雫、土の塊、風の球。
それらを目の当たりにしたスイコさんと長は驚きで目を見開く。
「これが光の使者の力か・・・・・・。」
「こうして御使い様の御力を見る事が叶ったのは嬉しい限りで御座います。」
「やっぱり凄いです、御使い様!」
そこまで騒ぐほどのものでも無いんだけど・・・・・・。
もう十分かと魔法を止めると、長が膝をついて頭を下げてくる。
「これまでのご無礼をお許し下さい、光の使者様。」
「き、気にしないでください、長さん。」
「私のことはどうぞズミアスとお呼び捨て下さい。」
「は、はぁ・・・・・・それじゃあズミアスさん、頭を上げて頂いて構いませんから。」
そう言ってようやく立ち上がるズミアス。
「それで、光の使者様。先ほど屋内では派手な魔法は出来ないと仰っていましたが・・・・・・屋外でなら?」
「外でならもっと威力のある魔法が使えますけど・・・・・・。」
「御使い様の魔法はホントに凄いんですよ! 沢山居た魔物を一瞬でやっつけちゃったんですから!」
「魔物が沢山・・・・・・? どういうことですか、クアナ?」
「あっ・・・・・・えーっと、それはぁ・・・・・・。」
言いよどむクアナに詰め寄るスイコさん。
クアナが彼女の圧力に勝てるわけがなく、集落に戻ってくるまでに起こった出来事を全て白状させられてしまった。
「まぁ、そのような事があったのですね・・・・・・。御使い様、クアナの命を助けて頂き、有難うございました。」
「い、いえ、クアナには道案内もしてもらいましたから。」
「しかし魔物の群れとは・・・・・・。この間討伐隊を出したばかりだったはずだが?」
「おそらく邪竜の魔力が広がってきているのでしょう・・・・・・。この集落を捨てることも視野に入れる必要があるかもしれません。」
いきなり集落を捨てるなんて話に発展してしまった。
だが魔物が集まってきてしまったのは、きっと俺の所為だ。
その為に家を捨てさせることになるのは流石に忍びない。
「えーっと・・・・・・、多分魔物たちは私を狙って集まってきただけだと思うので、集落を捨てたりする必要は無いかと・・・・・・。」
「御使い様を狙って・・・・・・!? その考えには至りませんでした。しかしご安心下さい、水の民の力をもって、必ず御使い様を御守りして見せます。」
うーむ、何か妙な勘違いしてるっぽいが・・・・・・。
俺(エサ)にありつけないから集まっただけ、なんて言うと更にややこしいことになりそうなので黙っておく。
「そ、それより魔法の話でしたよねズミアスさん!」
「えぇ、光の使者様の御力を集落の皆に示して頂きたいのです。口だけの説明では、やはり納得出来ない者も居りますから。」
今しばらくはこの集落でお世話になるしかないし、警戒されたままでいられるよりは崇められているほうがマシだろう。普通にしてもらうのが一番なのだが。
「分かりました。お膳立てをしてくれればやりますよ。」
「お任せ下さい、すぐに手配を始めます。では巫女殿、私はこれで失礼する。」
そう言ってズミアスは家を足早に出ていき、家の中はようやく落ち着きを取り戻した。
「クアナ、ごめんね。私に巻き込まれたせいで魔物に襲われちゃって・・・・・・。」
「いえ! 私の方こそ、お役に立てないどころか足手まといになってしまって・・・・・・。」
「そうですよ、クアナ。御使い様に迷惑をかけるなど、あなたは修行のやり直しです!」
「えぇっ!? そんなぁ~・・・・・・。」
説教されるクアナを見捨て、用意された部屋のベッドに寝転んで一息つく。
「過去の世界・・・・・・か。どうやって戻るかなぁ・・・・・・。」
いつもの癖で、何の気なしにメッセージウィンドウを開いてしまう。
「そういや通信出来ないんだから意味ないよな・・・・・・あれ、これは文字化けしてたドクのメッセージ? こんなんだったっけ?」
最初に気付いた時には文字化けで全く読めなかったはずのメッセージだが、一部の文字化けが直っている?
いや、状況が状況だっただけに気付かなかっただけかもしれないが。
とは言っても読めるのは一部分のみで、単語はどうにか分かっても文の推測までは出来そうにない。
「そういや添付ファイルもしっかり見てなかったな。」
ドクのメッセージに添付されていた画像ファイル。
破損していて描かれている魔法陣は殆ど読めないが、苦心しながら何とか読める箇所だけを辿って機能を調べていく。
気づけば明るかった外は完全に陽が落ちていた。頭痛が痛い。相変わらずドクの描いた魔法陣は複雑である。
「やっぱりこれ・・・・・・時間航行の魔法陣か?」
完全な機能までは分からないが、それに使われる記述は見て取れる。
つまりこの魔法陣を修復することが出来れば・・・・・・!
「・・・・・・ムリだな、こりゃ。」
知恵熱で痛む頭を押さえながら、一分もしない内に諦めた。
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