<")?#話「5分後の世界」

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<")?#話「5分後の世界」

 深い深い森の中。その場にそぐわぬ一本の塔が聳え立っていた。  整然とした四角柱型で、等間隔に並んだガラス張りの窓が陽光を反射させて空の色を映し出している。  そこに住む人々はその塔を”魔女の塔”と呼称しており、この塔にはその名の通り多くの魔女が住んでいる。  見る人が見れば高層タワーマンションと呼びたくなる建造物。その麓の開けた場所に、少女・・・・・・と呼ぶにはまだ幼い二人の幼女が並んで座ってカップラーメンを啜っていた。  年の頃は十に届くか届かないか。しかし、そんな彼女らこそが”魔女の塔”の住人である魔女なのである。  彼女らの目の前の地面には焦げた轍が走り、周囲の植物は一部が炭化して煙が燻っている。  一人の魔女が、その可憐な容姿に釣り合わないぶっきらぼうな言葉でもう一人の魔女に話しかけた。 「なぁ、もう5分経ってるよなドク?」  ドクと呼ばれた白衣の幼女が、カップラーメンを食べる手を止め気まずそうに答える。 「ふむ・・・・・・そうじゃな、とりあえずコイツを食い終わるまで待つとするかの、レンシア。」 「・・・・・・分かったよ。」  再びカップ麺を啜りだす二人。  しかし今まで食べ進めていたため、食べ終わるのにそれほど時間は掛からなかった。  空になったカップを脇に置き、立ち上がった幼女がドクに話しかける。 「さて、食べ終わった訳だが・・・・・・。」 「戻って来ないのう。」 「どうするんだよ、ドク? もしかして失敗したのか?」 「そんなはずはないんじゃがのう・・・・・・。」  ドクは火の消えた轍を見つめ、首をかしげる。 「そんなはずないって言っても、現に戻って来てないじゃないか。」 「ふむぅ・・・・・・ネズミの実験では上手くいったんじゃがのう。」 「どっちにせよアリスの奴を連れ戻さないと・・・・・・ってアイツは何処にいるんだ? オレたちの目の前から消えたのは確かだが。」 「・・・・・・・・・・・・あ。」  考え込んでいたドクが何かを思いついて声を上げた。 「何か分かったのか、ドク?」 「あぁ・・・・・・アリスが時間航行機を発信させる前、エンストさせておったじゃろ?」 「そういえばそんな事あったな。」 「あれで設定しておった行き先が初期化されたんじゃ。」  その言葉を聞いたレンシアが頭を抱える。 「初期化って・・・・・・はぁ、だから余計な機構は付けるなと。」  ただ、言っても無駄だと悟っているレンシアはそれ以上小言を言うことなく話を進める。 「それで、アリスは今どういう状態になってるんだ?」 「うむ、今あやつは過去に居るじゃろう。」 「過去? 何年くらい前だ?」 「さぁの。初期値にはゼロを設定しておったから、際限なく過去に遡っていくはずじゃ。」 「おいおい、それでアリスは無事なのかよ?」 「おそらくは魔法陣が耐えられずにどこかで焼き切れるじゃろうから、宇宙の始まりまで遡ることは無かろう。ブレーキでも踏んでおればもっと手前に着地しとるはずじゃ。」 「それってさ・・・・・・もの凄く範囲広くないか?」 「そうじゃな。新しく時間航行機を作ってワシらが追いかけても、ピンポイントで探し当てるのはほぼ不可能じゃろう。」  自分たちで連れ戻すのは絶望的・・・・・・そう告げられ、ガックリと肩を落とすレンシア。 「マジか・・・・・・。いや、でもアリスも不老なんだし、わざわざ迎えに行かなくても――」 「今この時点で過去から生き続けてきたあやつに出会っていない以上、その可能性は捨てた方が良いじゃろうな。」 「ま、そうだよな。それで、何か手はあるのか?」 「少し考えをまとめる時間をもらえるかの。」 「頼むよ。オレは・・・・・・アリスの”嫁さん”に会いに行ってくるよ。」 *****  翌日。まだ空が白み始めたころにレンシアの首飾りが音を鳴らし、緊急の連絡があることを告げた。  レンシアはベッドに身を起こし、未だ重い目を擦りながらメッセージを確認する。 「ドクの奴・・・・・・徹夜したのか?」  メッセージで呼び出されたレンシアは取るものも取り敢えず、ドクの研究室へと足を運んだ。  そして研究室に踏み込むなり、作業中のドクから紙の束を放り投げるようにして渡される。  ぺらぺらと紙束をめくって調べていくと、一枚一枚にドクが殴り書きした設計図が描かれていた。  レンシアは全てに目を通し、概要を頭の中に詰めていく。 「転移用の受信器・・・・・・とはちょっと違うみたいだが、これは?」 「転移用の空間座標とは別に、時間座標も設定するよう改造したものじゃ。ソイツを建てればアリスが戻るための目標地点になる。」 「なるほど、コイツに向かってアリスを飛ばせるって寸法だな。で、肝心のアリスはどうやって飛ばせるんだ?」 「それは今作っておる。お前さんには受信器の方を任せたぞ。」  そう言うと、ドクは自分のしていた作業に集中してしまった。  こうなってしまえばいくら声を掛けても無意味であるレンシアは、紙束を持ってその場を後にした。  レンシアの去った研究室には、ドクのぼそぼそとした独り言と、彼女の行っている作業の音だけが響く。  寝食を忘れたドクの手は止まることなく、やがて―― 「出来たぞい!!」  ドクが完成させた装置に、自分が掛けていた首飾りの紅い宝石の部分をはめ込んだ。  そしてメッセージウィンドウを表示させ、文字を入力していく。 「よし、あとはこの魔法陣を添付して――」  ドクがメッセージの送信ボタンを押すと、はめ込んだ紅い宝石から装置へと光が広がり、装置の上部に装着されたガラス球の中へ光が収束していった。 「――完了じゃ。これで過去にいるアリスにメッセージが届いたはず・・・・・・じゃ。」  バタリと仰向けにドクが倒れる。  研究室には彼女のいびきと、腹の虫の鳴き声だけが響いていた。
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