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二話「契約の儀」
「えーっと・・・・・・ひとまず頭を上げて、現在の状況を説明してもらえませんか?」
頭を下げたままの巫女に、俺は言葉をかけた。
結界を破って逃げ出すにしても、情報を仕入れておいて損は無いだろう。
今の俺に分かっているのは、どうやらここが日本らしいということくらいだしな。
「分かりました。ご説明いたします。」
巫女の説明によると、俺は妖怪と戦わされるために召喚されたらしい。
「いや、ちょっと待って!? もっと初めの方から話して欲しいんですけど!?」
「初めの方・・・・・・とは?」
「そもそも此処は何処なのか、とか。日本・・・・・・なんだよね?」
「はい。日本で間違いありません。」
やはり日本で合っていたようだ。
だが気になることは他にも山ほどある。
「それじゃあこうしよう。私が質問するからそれに答えてくれる?」
「招致しました。」
俺は知りたいことを質問していき、それに答えてもらう。
どうやら、俺が居た頃の数百年後の日本らしい。嘘だろと思いたいが、こんな普通に河童が出てくるような世界ではなかったし、さもありなんといった感じ。
ある時、日本国内で妖怪が大量発生し、多くの被害が出たのが始まりである。
原因は後になって判明したのだが、いつの間にか世界に溢れていた妖力によって、封印されていたり眠ったりしていた妖怪が活動を始めたのだという。
だが政府やいくつかの団体は事前に察知しており、最悪の事態は免れることができたという話だ。
そういえば転生させられる時にそんな話を聞いた気がするな。
地球に魔力が漏れないように、魔力を持った魂を異世界へ転生させていたはずだ。
対処療法だと言っていたので、それが間に合わなくなってしまっての結果なのだろう。
でもその対処療法のおかげで人類が滅亡するような事態にはならなかったということか。
そして世界は魑魅魍魎が跋扈する世界に変わってしまったのである。
そんな魑魅魍魎から人の世を取り戻さんと戦っているのが、ここに居る彼らなのだそうだ。
それにしては規模が小さいような気がするが・・・・・・それだけ人類側が追い詰められてるってことか?
その魑魅魍魎に対抗するための手段の一つとして、式神とかいうのが存在するらしい。
まぁ、要するに召喚獣的なやつだ。
それで俺が召喚されたらしいが・・・・・・どうしてそうなった。
「どうして私が召喚されたんですか?」
「そ、それは・・・・・・。」
この質問には言葉を濁してしまう巫女。
答えを待っていると、代わりに隣の河童が口を開いた。
「術者の実力に見合った式神が召喚されるようになっておりますじゃ・・・・・・本来ならば。」
「本来ならば・・・・・・? つまり私はイレギュラーだと?」
河童が頷いて答える。
「左様でございますじゃ。式神様の妖力はこちらの巫女よりも遥かに高く、契約の紋を刻んだとて、式神様を操るようなことは出来ぬでしょうな。」
ということは、俺の存在は彼らにとっては持て余すものだということか。
「でしたら、私を元の世界に帰してもらえませんか?」
「も、申し訳ありません・・・・・・! 里の総力をもってしても式神様ほどの力を持つ御方を帰すだけの送還術は発動出来ないかと・・・・・・。」
巫女がもう一度深々と頭を下げる。
うん、分かってた。そう簡単に帰れるはずないよねー・・・・・・。
「はぁ・・・・・・分かりました。とりあえず衣食住くらいは用意してもらえるんですよね?」
「も、勿論です! では早速契約の儀を・・・・・・。」
「それってやらないとダメなんです?」
俺に効果があるのかは未知数だし、そもそもよく分からない契約なんて結びたくはない。
どうせなら自由に動けるようにしておきたいしな。
「え、えぇと・・・・・・。」
口ごもる巫女に代わってまた河童が答える。
「召喚された式神は不安定な存在であるため、契約の紋には式神をこの世に留める力もあると聞き及んでおりますじゃ。」
「不安定、というのは?」
「この世に留める力が無ければ、次元の狭間へ引きずり込まれやすくなるとも言われとります。」
「それは元の世界に帰されたということでは?」
「送還術を使ったのでなければ、儂らには判断がつきませんのじゃ。全て古い書に記された情報ですので、判断は式神様のお好きなようになさってくだされ。式神様の御力であれば、このような結界も容易く砕けるでしょうしの。」
この河童にはお見通しだったか。
しかしイヤな情報を聞かされてしまった。これじゃあ契約を断るということは出来ないな。
この世界から更に変な場所へ飛ばされるよりも、ここに残って元の世界へ帰る方法を見つける方が良さそうだ。
おそらく契約の儀というのも魔力を介して行う術のはず。魔力の流れを解析してやれば、いざとなったとき解除することも可能だろう。
「分かりました。契約の儀をお願いします。」
「あ、ありがとうございます! では私の呪言に続き『”ケいやク”』と唱えてください。」
『”契約”』ね。
俺は了承の意味を込めて巫女に頷いた。
その様子を見て取った河童は、俺たちの傍を離れて魔法陣の外へ向かう。
「それでは、参ります。式神様、手をこちらへ翳してください。」
巫女はそう言って手のひらを俺に向けると、不協和音のような共通語を唱え始めた。
俺は巫女の手のひらと向け合うように手のひらを翳す。
不協和音に思わず耳を塞ぎそうになったが、ここはガマンだ。
『――なんジ と われ たまシいを交わし つなギトめん ”ケいやク”!』
『・・・・・・あ、”契約”。』
俺が答えると、結界の中に描かれた魔法陣が光りを放ち、外側の魔法陣へと伝播するように広がっていく。
”契約”がこの魔法陣の起動語だったようだが、巫女の言葉では発音が悪すぎて起動しなかったらしい。
結界へと注がれていた魔力が途切れ、互いの手のひらの間に集まっていく。
なるほど、魔力の流れを切り替えてそのまま”契約”の方に回したのか。
しばらくして光が収まると、お互いの手のひらには小さな印が残った。これが契約の印というやつだろう。
「これで終わり?」
「はい、恙無く。」
改めて手のひらに刻まれた印を眺めてみる。どうやら、魔力の送受信機能があるようだ。
ただし、こちらから送る魔力の効果は減衰され、受け取る魔力の効果は増幅されるようになっている。
巫女に付いた印には、おそらくその逆の作用があるのだろう。
「何かありましたか、式神様?」
「いえ・・・・・・あぁ、契約したあとに聞くのもなんですけど・・・・・・。」
「何なりとお聞きください。」
「教えてくれますか? あなたの名前。」
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