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四話「わからせ幼女」
チュンチュン、と外から聞こえてくる鳥たちのさえずりで目を覚ます。
「ふぁ・・・・・・ねむ。」
眠い目をこすりながら視線をぐるりと回転させると、昨日寝る前に見た和室の風景そのままだった。
「やっぱ夢じゃなかったかー・・・・・・。」
寝ぼけまなこで何度見まわしても景色が変わるわけではないと思い立ち、布団から這い出る。
障子を開け放して庭を眺めると、朝露が陽の光を反射そしてキラキラと輝いていた。
「爽やかな朝だなぁ・・・・・・。ホントに未来なのか、ここ?」
俺の想像してた未来はもっとこう・・・・・・宙にたくさんホログラムが投影されていたり、もっとゴチャゴチャした感じだと思っていたのに、頭上には電線一本通っていない。
「のどかというか、田舎過ぎる・・・・・・。」
だが妖怪が実在する世の中になっているというのも事実。
そっち方面にベクトルが向いてしまったと納得するべきか。
「・・・・・・いや、納得できない!」
「何が納得できないんだい、式神さま?」
いつのまにか豊子さんが来ていたらしい。
そんな彼女の手にはお盆が載っている。
「あ、いや、何でもないです。」
「そうかい? したら朝餉だべ、式神さま! お部屋に戻るべな!」
豊子さんと共に部屋へ戻ると、彼女が机の上に朝食を並べていく。
「おぉ・・・・・・。」
ご飯に味噌汁に焼き魚に漬物・・・・・・これぞ俺が望んでたザ・和食だ。
「式神さまのご希望通りにしたけんど・・・・・・ホントにこんで良かったんかい?」
「はい、ありがとうございます!」
並べられた食事をガツガツとかきこむ。
「いい食いっぷりだべなー! おかわりいるべか?」
「よろしくおねがいします!」
*****
いやー、食った食った!
この味は向こうの世界じゃまだ出せそうにないな。
「食い終わったら、河神さまが修練場に来て欲しいそうだべ。」
「修練場?」
そういえば昨日、力を認めさせるようなことを言ってたっけ。
もう準備ができたのか?
「案内を呼ぶから部屋で待っとり。」
豊子さんが食器を下げてからしばらく待っていると、別の給仕さんが迎えにきてくれた。
「式神様、こちらへ。」
案内されるままについていくと、とうとう屋敷の敷地外へと出た。
外の様子はやはりというかなんというか、町と言うより村や集落に近い規模だ。
そして古い造りの建物ばかり。やっぱ未来じゃなくて大正時代にでもタイムスリップしてきてしまったのか?
集落の様子を観察しながら案内人についていくと、大きな広場へ辿り着いた。
広場では大勢の修験者たちがその腕を振るっていた。俺の姿を認めるや否や、鋭い視線が飛んでくる。
「おお、式神様! ようこそおいでになられましたのじゃ!」
「お待ちしておりました、式神様。」
到着した俺を出迎えてくれたのは昨日も見た河童の翁と巫女のユカリだった。
「もう準備は出来たんですか?」
「はい。式神様さえ良ければ、いつでも始められますじゃ。」
「分かりました。それじゃあさっさと終わらせちゃいましょう。」
俺の言葉に突き刺さる視線が更に鋭くなる。
「それで、どういう方法で力を示せばいいんですか?」
「希望者と一対一で戦っていただきますじゃ。」
なんかここに集まってる人たち全員希望者っぽいんですケド・・・・・・。
こんなのバカ正直に相手してたら日が暮れてしまいそうだ。
「いえ、時間かかりそうなので希望者全員で一斉にかかってきてください。」
「い、いや・・・・・・いくら式神様とは言え――」
「良いじゃないですか、河神様! 式神様がそう仰ってるんでしょう!?」
威勢のいい一人の男が吠える。
「し、しかしじゃな――」
「そうですよ。私が良いって言ってるんですから、良いじゃないですか。皆さんもやる気みたいですし。」
「わ、わかりましたですじゃ。くれぐれもご無理はなされませんよう・・・・・・。」
「その言葉はあちらにかけてあげた方がいいですよ。」
「な、なんだと・・・・・・!?」
さらにいきり立つ修験者たち。
まぁ煽るのはこれくらいにしておくか。
修練場の端に準備されている木刀を掴み、修練場の中央へ歩みを進める。
「さあ、どこからでもかかってきてください。」
「なめるなよぉ!!」
木刀を振りかぶって飛び掛かってきた一人を、触手で迎撃する。
「がはっ!?」
吹き飛ばされた男は何人かにぶつかってようやく止まる。
「な、なんだコヤツ! 妙な妖術を・・・・・・ぐあっ!」
「ボーっとしてるならこっちからいくよ!」
浮足立っている一団に突っ込み触手で薙ぎ払うと、面白いように吹き飛んでいく。
「クソッ・・・・・・! 何をやってるお前ら、囲め!」
一人の号令で一瞬で周囲を取り囲まれる。
指揮系統はしっかりしているようだ。
「切りかかれ!」
全方位から一斉に木刀が振り下ろされる。
「よっ、と。」
それを触手を使って真上に飛んで大きくかわす。
「くっ! だが着地を狙えば・・・・・・な、なんだあの巨大な水の塊は!?」
ただ単に魔力から水を生成しただけの塊だが、この物量と重力が合わされば・・・・・・。
「「「ぎゃああぁぁぁ~~~!」」」
人だかりの中心点から発生した津波が、密集していた人間たちを蹴散らしていく。
かろうじて難を逃れた者たちも、隙を狙った俺の一撃で次々に気絶していく。
「なんのこれしき・・・・・・!」
びしょびしょになりながらも立ち上がるなんか偉そうな人が木刀を構え直す。
根性はありそうだ。
「じゃあこれで最後。」
彼に向かって、持っている木刀を投げつける。
「ハハハ! あれほどの妖術、さすがに妖力が切れたか!」
飛来した木刀を難なく打ち払うラストワン。
そしてその勢いのまま切りかかって来る。
「もらっ――何ぃ!?」
投げた木刀は当然フェイク。
本命は木刀を投げてからすぐに作った即席土の棒だ。
即席とはいえ俺の魔力を込めた棒にただの木刀が強度で敵う訳はなく――あえなく木刀は砕け散った。
「はい、これで終わりですね。」
ピタリと彼の首元に土の棒を当てる。
「ま、参った・・・・・・! 式神様の実力は認める・・・・・・!」
こうして俺は、この集落で大きな顔を出来る権利を手に入れたのだった。
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