六話「犠牲と答え」

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六話「犠牲と答え」

「はいはい、お待たせだよ、式神様!」  ユカリの部屋に食事を運んできた豊子さんが、小さな机の上に食事を並べていく。  静けさの強いこの部屋では、いつも騒がしい豊子さんの振る舞いがありがたい。  豊子さんが食事を並べ終えると、俺の分だけでユカリの使っている机は三分の二ほど占領してしまった。  俺が結構な量を食べると気付いた豊子さんが、おなかいっぱいになる量をちゃんと準備してくれているのだ。式神生活も悪くないな。  ほどなくして、ユカリの食事も運ばれてくる。 「失礼します。」  ユカリの付き人の一人が豊子さんとは対照的に、しずしずとした所作で音を立てずにユカリの食事を並べていく。  食事を並べ終えると、付き人は礼をしてそのまま退室していった。 「え・・・・・・それだけ?」  ユカリの前に置かれた食事を見て思わず言葉が出てしまった。  お茶碗におひたしと煮物の小鉢に、お吸い物。中身はどれも俺の一口に満たない・・・・・・は言いすぎかもしれないが、あきらかにユカリの年齢には見合っていない、精進料理も真っ青なラインナップだ。 「何かおかしいでしょうか、式神様?」 「おかしいというか、そんな量じゃ足りないでしょ!?」 「そんなことはありませんよ。」 「そんなことないって・・・・・・。」  どう贔屓目に見ても足りてない。  こんな食事が続いてるなら、確実に栄養失調状態になっているだろう。どうりで身体が小さいわけだ。  しかし修験者や屋敷で働いている人たちの様子を見ても、集落の食糧事情がひっ迫しているわけではなさそうだ。  つまり、ユカリだけがこのような扱いを受けているのかもしれない。 「とにかく、私のも一緒に食べよう!」 「そ、それでは式神様の御食事が・・・・・・。」 「そんなこと気にしてる場合じゃないでしょ! って言ってもいきなり量を増やしても負担になっちゃうか・・・・・・。とりあえず、少しずつ食べていこう。」 「で、ですが・・・・・・。」 「嫌だって言っても、私たちには契約の印があるからね。」  しかも魔力差がありすぎて俺から一方的に命令できるオマケ付きだ。  いや、変なことには使わないけど。  そんなことをしたらユカリがあまりに不憫過ぎる。 「は、はい・・・・・・。」  観念して頷くユカリ。  取り皿に少しずつ料理を取り分け、ユカリの前に置く。 「さぁ、ちゃんと食べてね。」  ユカリはおずおずと箸を進めて料理を口に運ぶ。 「お、おいしいです・・・・・・。」  うんうん、やっぱり子どもにはちゃんと食べさせないと。  明日からはここで食べるようにした方が良さそうだ。  しばらくの間そうして料理を楽しんでいると、ドスドスと廊下を騒がしく走って来る音が聞こえてくる。  その音は俺たちの部屋の前でピタリと止んだ。  バンッと勢い良く襖を開け放ったのは、鬼のような形相をしたしわがれた河童だった。  彼は部屋の中を見渡すと、そのままの勢いでユカリに詰め寄り、平手を打った。 「何をしとるか! この大馬鹿もんが!!」 「あぅ!」  あっけに取られて眺めてしまっていたが、慌ててユカリを庇うように間に入る。 「ちょ、なにをやってるんですか!?」  肩で息をしながら河童が答える。 「式神様、このようなことは二度とやらないで頂きたいですじゃ。」 「このようなこと、とは?」 「巫女に穢れを取り込ませない・・・・・・みだりに食事を与えないようにということですじゃ。」  そんなペットじゃあるまいに・・・・・・。 「でもそれじゃユカリさんの身体に悪いですよ!? このままじゃ命にだって関わって・・・・・・。」 「仕方ありませんのじゃ。そうすることでこの集落は守られてきたのですじゃ。」 「それは一体どういう・・・・・・?」 「分かりました、お話しますのじゃ。付いて来ていただけますかの?」  俺は黙って河童の言葉に頷いた。  ユカリに治療を施してから、河童の後について部屋を出る。  到着したのは彼の部屋だった。 「それでは、お話いたしますのじゃ。」  河童に聞いた話を要約すると、身体を飢餓状態に保つことで、体内への魔力の吸収効率が上がるらしい。  代々の巫女はそうして得た魔力で集落を守る結界を維持してきたのだそうだ。  つまり、この集落は巫女たちの犠牲に成り立っていると言っても過言ではない。 「こうして私をここに連れて来たということは、その話ユカリさんにはしてないんですよね?」 「知らぬ方が良いこともありましょう。」  それは確かにそうだろう。それを伝えられたとて、今の彼女に選択肢は無いに等しい。  巫女と同様に、このことを知る者は少なく、今となってはそんな何も知らぬ彼らの命も秤にかけねばならないのである。  しかし巫女を、ユカリを犠牲にし続けて、果たしてそれで良いのか?  俺に答えを出すことは出来なかった。
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