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):*'=話「運転するタイプ」
「やっと来おったな、アリス。」
”魔女の塔”にある自室に転移した俺は、その足で地下にある研究室を訪れた。
研究室には室長のドクとレンシアの二人が俺を待っていた。
「やっとって・・・・・・時間通りだろ?」
「時間通りでも遅いもんは遅いんじゃ!」
なんて横暴な・・・・・・。
まぁ、魔道具に関して人が変わるのはいつものことだが。
「さっさと外に行くぞい、二人とも!」
「え、外? 一体何するつもりだよ?」
「あとで説明するわい!」
ドクが大股で歩く後ろを、ため息を吐きながら小走りで追いかける。
その後ろからレンシアもついてくる。
「というか、何でレンシアも居るんだよ?」
「今回のは以前からオレが頼んでいたものだからな。」
どうやらかなり昔から依頼していたモノらしい。
それが今回テストする魔道具のようだ。
「そうなのか・・・・・・? 一体何の魔道具なんだ?」
「行けば分かるよ。それより、急がないとドクの機嫌をまた損ねるぞ。」
ドクからの依頼を受けて部品を作ったりしているが、「何が完成するのか」まで聞かされることは殆どない。
情報漏洩を危惧して・・・・・・などという高尚な理由ではなく、ただ説明するのが面倒なだけである。俺もわざわざ聞くつもりは無いのだが。
部品ではなく、そのままの形を依頼してくれれば何を作るのか想像もつくのだろうが、そうするとバラせないのが問題なのだ。
魔力操作が出来るのは今のところ俺だけなので、バラして中身を弄ろうと思うと、また俺を呼び出さなければならなくなってしまうのである。
「へいへい、分かってるよ。」
塔から出ると、すぐ傍に建てられている納屋へと連れて行かれた。
中に入るとだだっ広い空間が広がっており、中央には大きな布を被せられた物体が鎮座している。
ドクはその物体へ近づいて布を掴み、バッと引きはがした。
「く、車・・・・・・?」
布の下から姿を現したのは、前世では”自動車”と呼ばれていた代物であった。
だが自動車と呼べる機能を持つ魔道具を作るだけなら、そこまで開発に時間はかからないはず。
馬車代わりのトラックを作ってもらったことだってあるしな・・・・・・。
つまり、何か別の機能が付いた自動車なのだろう。
「これは何なんだ、ドク?」
「聞いて驚くがよい、これこそワシが長年かけて開発した”時間航行機”じゃ!」
「じ、じかん・・・・・・何?」
「要するに”タイムマシン”ってやつだな。」
首を捻る俺に向かってレンシアが簡潔に答えた。
なるほど、タイムマシン――
「――って、そんなもん作らせてたのかよ。」
そりゃ時間が掛かるのも頷ける。
「でもどうしてタイムマシンなんか・・・・・・。」
「色々とあるんだよ、オレ達にはな。」
話してくれるつもりはなさそうだ。
まぁ、今はそんなことより仕事の話である。
実験なんてとっとと終わらせて、家に帰ってフラムの仕事を手伝ってやりたい。
「で、俺は何をしたらいいんだ、ドク?」
「まずはソイツを納屋の外に出してくれ・・・・・・ほれ。」
ドクが放り投げた鍵を慌てて掴んだ。
そのカギを使って車に乗り込み、運転席に腰を落ち着ける。助手席にはドクが乗り込んできた。
中を見回すとハンドルが目の前にあり、その奥に速度計と回転計、手元にはシフトノブ、アクセルとブレーキそしてクラッチ。
内装は”普通”の車と大して変わらない。
「おい・・・・・・足届かないんだけど。」
そう、”普通”過ぎたのである。そのサイズまで。
「何を言うとるんじゃ、お主には触手があるじゃろう!」
「いや、あるけども。面倒なんだからせめて幼女サイズで作ってくれよ・・・・・・。」
「それだと玩具みたいになってしまうじゃろうが!」
確かに・・・・・・良くてゴーカートと言ったところか。
いやいやいや待て待て待て。そもそも”タイムマシン”を”自動車”で作る意味が全く無いんだが!?
基本的に魔道具なんてモノは魔法陣を刻めればそれで良くて、あとは用途に見合った器なり何なりで問題ないのである。
タイムマシンなんて唯の箱にでも魔法陣を描けばそれで済む話なのだ。
元々素体となる自動車があってそれに手を加えるという話ならまだ分かるが、この”自動車”はわざわざ一から作ったものである。無駄以外の何物でもない。
まぁ、報酬は部品作りも含め良い額をもらっているし、ドクと魔道具作成論を交えるつもりもない。
それこそ時間の無駄である。
ドクに言われるがまま車を起動し、恐る恐る操作しながら納屋を出て塔の前にある広場に停めた。
「どうじゃ、ギアの感触は?」
「どうと言われてもな。普通の車――って、”中身”まで作ってあるのか!?」
「当然じゃろう!」
胸を張って言うことか?
中身なんて「魔力を流したらタイヤが回る」程度のもので良いだろうに。
作るのに時間が掛かった理由は無駄なギミックを載せまくったからじゃないか・・・・・・?
「それで、ここからどうするんだ?」
まさか自動車に満載されたギミックの具合を確かめる、のが今回の試験ではないだろう。
「少し待っておれ。」
ドクがセンタークラスターに備え付けられた制御盤を操作し始めた。
話を聞くと、これで行き先を入力するらしい。
設定を終えるとドクはそのまま助手席から降り、運転席の窓越しに話しかけてきた。
「今から5分後に座標を設定した。あとはギアを”時間航行”に入れてアクセル全開じゃ!」
シフトノブを見ると”T”とデカデカと書かれた場所がある。
これがドクの言う”時間航行”ギアだろう。
彼女の指示通りにシフトレバーを動かし、”T”のギアに入れる。
「で、アクセル全開・・・・・・って、マジ?」
塔の周囲はある程度のスペースが確保出来ているとはいえ、車で走り回れるような広さは無い。
そして一度外へ飛び出せば鬱蒼とした森が待ち受けている。
そんな場所でアクセル全開なんてしようものなら、結果がどうなるかなど火を見るよりも明らかだ。
机の引き出しに入ってるタイプのマシンならこんな心配する必要なかったのだが。
「安心せい。エアバッグ搭載済みじゃ!」
安心出来ねぇ!!
とは言ってもここでゴネてても仕方がないか・・・・・・。
ドクはマッド気味ではあるが安全性を疎かにするような人物でもない。
それに”タイムマシン”と聞いて心が躍っている自分が居るのも確かだ。
「はぁ・・・・・・分かったよ。ぶつけてどっか凹んでも文句は言うなよ?」
今一度ギアが”T”に入っていることを確認し、触手を使ってアクセルを一気に踏み込んだ。
プスン・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・エンストした。
「何をやっとるんじゃ!!」
「触手で操作するのは難しいんだよ、仕方ねえだろ!」
くっ・・・・・・、まさか異世界に来てエンストを経験するハメになるとは。
気を取り直し、もう一度”タイムマシン”を起動させる。
今度は慎重に発進させてから、アクセルをと踏み込んだ。
座席に押さえつけられるような加速度がかかり、広場の向こう側の景色・・・・・・すなわち鬱蒼とした森が近づいてくる。
・・・・・・ヤバくね?
思わずブレーキを踏みそうになった瞬間、周囲が真っ暗な闇に包まれた。
「これが・・・・・・時間航行ってやつ?」
周りには何も見えず、ただただ闇が広がるのみ。
進んでいるのか止まっているのか、それすらも分からない。
照明で照らされた車内の景色が、辛うじて俺がここに居るのだと証明してくれているようだ。
「で、ここからどうしたらいいんだ・・・・・・?」
しばらくアクセルを踏みっぱなしにしているが、一向に闇から抜け出られそうにない。
「というか、もう5分経ってるよな?」
まさか5分以上かけて5分後の未来へ行くなんて、本末転倒な結果か・・・・・・?
”タイムマシン”部分の魔法陣はマウスを使った動物実験を行っており、成功しているらしい。
ただ、マウスが「5分以上かかった」なんて報告はしないだろうからな。
「どうすりゃいいんだ、これ?」
マウスが無事生還したというのなら、ここで餓死するようなことは無いと思いたいが・・・・・・。
ため息を吐いていると、何やら軋むような音が聴こえてきた。
「なんだこの音?」
耳をよく澄ませてみると、どうやら車が軋む音のようだ。
そして時間が経つごとにその音が大きくなってくる。
「え、ちょ・・・・・・ヤバくない!?」
まるで車が悲鳴を上げているかのようだ。
どう対処しようか迷っていると「バァン!」と大きな音が響き、ボンネットが吹き飛んで暗闇の中へ消えて行った。
「と、とりあえずブレーキだブレーキ!」
アクセルから触手を放し、そのままブレーキを踏み込む。
すると闇で覆われていた周囲の景色が一気に晴れ――
大きな衝撃とともに意識を失った。
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