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2話「異世界で美少女を助けるのは当然の務め」
「あの娘は・・・・・・?」
木の上から魔物たちに見つからないよう少女の様子を伺う。
鮮やかな水の色の髪をした少女は肩で荒々しく息をし、一本の木に背を預けてお尻を地面につけてしまっていた。
この魔物に囲まれた状況では悪手だが、それも仕方がないだろう。彼女の片腕は砕かれたのかプランと垂れ下がり、太ももは折れた木の槍で貫かれ、真っ白だったと思われる彼女の衣装は真っ赤に染まっているのだ。
放っておけば出血量から一時間もしないうちに命を落としてしまいそうだが、魔物に喰われる方が早いだろう。
周囲には多くの魔物の死体が積まれ、それなりに善戦していたように見える。
しかし圧倒的な物量に圧されて遂には・・・・・・といった感じか。
「ぅ・・・・・・”水弾”!」
少女の口から引き絞るような声で呪文が紡がれ、まだ無事な方の手から強力な水弾が放たれる。
ジリジリと近寄っていた魔物のうち一体に直撃し、身体に大きな穴が空いた魔物はそのまま倒れて動かなくなった。
ある程度の牽制にはなっているようだが所詮は多勢に無勢。魔物を一体倒したところで焼け石に水の状況である。
「どうして・・・・・・こんなに魔物が・・・・・・っ。」
・・・・・・俺の所為だよなぁ、やっぱり。いやまぁ・・・・・・じ、事故! 事故だからね!
どちらにせよ、あの娘を見殺しになんて出来ない。
「とは言っても・・・・・・どうするかな・・・・・・。」
一刻も早く周囲の魔物を片付けて彼女の治療に当たりたいところだが、さっきの技ではあの娘を巻き込んでしまう可能性もあるし、時間も掛かってしまう。
「よし・・・・・・少し危ないけど、あの手でいこう。」
ここまで来る間に魔力は十分に練り上げてある。
あの一団を一掃してもお釣りが出るくらいには威力が出せるだろう。
「そうと決まれば・・・・・・とうっ!」
木の上から跳び、少女と魔物たちの間に降り立つ。
「地面に頭を伏せてて!」
後ろの少女に言い放つと、溜めていた一気に魔力を解放した。
魔力を水流に変え、極限まで圧縮した糸の様な水流を発射する。いわゆるウォータージェットを魔法で無理矢理再現したものである。もちろん並大抵の魔力ではこんなことは出来ない。
伸びた水流を膨大な魔力で維持しながら円を描くように一閃。取り囲んでいた魔物たちの魔力反応は一斉に消失した。
慌てて周囲に魔物がいなくなったことを確認し、少女に駆け寄って抱き上げる。
「ちょっと乱暴にするけど、ごめんね!」
少女を抱えたまま触手を地面に突き刺し、思いっきり伸ばすと、俺と少女の身体が空へ向かって持ち上げられていく。
そして、ちょうどすぐ傍の木の高さを越えたところで、ゆっくりと周囲の木が傾き出した。
目線を下に向けると、葉擦れの音を響かせながら重力に引っ張られるまま倒れていってしまう。
時折隣の木にぶつかったり揉み合ったりしながら、木々がハンマーのように地面を打ち付けていく。
地面の振動を触手越しに感じつつ、俺は一息ついた。
「ふぅ・・・・・・間に合ったか。魔物は倒したけど倒木に圧死させられるなんて、恰好がつかないしな。」
「ぁ、の・・・・・・あな、た・・・・・・は・・・・・・?」
「もう大丈夫だよ。安心して。」
努めて優しく少女に語り掛け、魔法で眠らせた。
眼下のもぐら叩きが収まったのを見計らって地面に降り立つ。
「自分でやったとはいえ、酷い惨状だな。」
強力な技だが、やはり問題も多い。
魔力の消費が多い上、何であれ無差別に斬ってしまうのだ。使いにくい事この上ない。
「さて、早く治療しちゃおう。」
土で簡易ベッドを作り、その上に少女を寝かせる。
魔法で眠らせたため静かな寝息を立てて胸を上下させているが、血を多く失っているため顔色はかなり悪い。可愛い顔もこれでは台無しだ。早く治してあげないと。
砕けた腕は後回しにするとして、貫かれた脚を先に治療するのが良さそうだ。
「この槍、抜いたら血がドバッと出る感じの刺さり方だよね・・・・・・。服も一緒に貫通しちゃってるから、とりあえず先にこっちを処理するか。」
それなりに上等そうな布で織られた衣装は、輝くような白地に青いラインで紋様が描かれており、少女が神職の類の位に就いていることを容易に想像させる。
神官・・・・・・というよりはどこかの民族のシャーマンと言った方がしっくりとくる。
そんな娘がこんな場所に居たんだし、そう遠くないところに彼女の住む村なり町なりがありそうだ。
意識が戻ったらそこまで案内してもらうのも良いかもしれないな。
レンシアの街までの道が分からなくても、そこを拠点に出来れば探索も幾分か楽になるはずだ。
「布はキレイだけど、服の作り自体はそこまでかな。」
丁寧には作られているが、少なくとも服職人が作ったっていう感じではなさそうだ。
服を留めるために結ばれている紐を解いていくと、ちらりと少女の腰の部分がはだけ、白い肌を晒した。
「穿いてないんだけど・・・・・・。」
下着とか穿かない文化なの?
まぁ死ぬよりはマシだろうと思い、邪魔になりそうな部分を土のナイフで切っていくと、太ももの大部分が露わになり傷口もよく見えるようになった。
太ももの上部に触手を巻き付け、締め上げる様にして固定する。
「それじゃあ、やりますか。」
深呼吸して両手に魔力を練り上げていく。
魔力が出来上がったらもう一本の触手を作り出し、今度は脚に刺さった槍に巻き付ける。
「次は・・・・・・引っこ抜く!」
掛け声とともに、足に深々と刺さっていた槍を引き抜いた。
真っ赤な鮮血が溢れ台の上を赤く染め上げていく。
ここからは時間との戦いだ。
練り上げていたうちの魔力を一つ使い、傷口に洗浄魔法をかけ浄化する。
少し遅れて、残った魔力を使って治癒魔法を発動させた。
治癒の光が傷口を覆い、癒していく。俺は治癒の光が消えないよう魔力を流して維持し続ける。
「よし、これで良いかな。」
完全に傷が塞がったのを確認し魔力を止めると、治癒の光は徐々に小さくなって消えていった。
傷のあった部分にそっと触れ、ゆっくりと撫でてみる。
くすぐったかったのか、少女が身を捩る。
「違和感は無いし、こっちはもう大丈夫かな。」
次は腕の方だ。
骨は砕かれ、内出血で腫れ上がってしまっている。
おそらくはヤツらの持っていた棍棒の一撃をまともに受けてしまったのだろう。
膂力はかなりありそうだったからな。
「こっちも治せそうだね。」
もう一度治癒魔法を使い、患部に治癒の光を当て続けると徐々に腫れが治まってきた。
内出血で赤紫に変色していた肌も、透き通るような白い肌に戻っている。
「うん、腕も綺麗になったね。」
あとはこの娘が目を覚ますのを待っておこう。
減った血は治癒魔法では戻らないから、何か食べさせてあげないと。
て言っても、インベントリには保存食しか入ってないんだけど・・・・・・。
料理はバザーで買えるからと、インベントリ内の時間停止機能を解除してなかったのが痛いな。
時間停止してしまえば出来たての料理や足の早い食材を腐らせずに保存出来て便利なのだが、その分料金は高い。貯金が半分ほど消える。
・・・・・・戻ったらドクに慰謝料として請求するか。
「さて、眠り姫が目覚めるまでは・・・・・・掃除かな。」
倒木と魔物の死体でぐちゃぐちゃになった周囲を見渡し、俺は溜め息を吐いた。
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