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訪問者
ギリギリ東京都内に建っている、築五十年以上のボロアパート。
日付がそろそろ変わろうかという深夜、二階の角部屋のドアが、何者かの手によって叩かれた。
「誰?」
この部屋の住人である小橋隆敏は、手にしていたスマートフォンの時刻を確認してから、玄関ドアの前に向かい、ドアの向こうの人物に尋ねる。
「俺だ。清水だ」
「清水?」
「清水飛朗斗だよ。同じ学部の」
「ああ」
相手が同じ大学に通っている清水飛朗斗だと分かり、隆敏は鍵を開けて、ドアを開けた。
「こんな夜中に何?」
清水は同じ大学の、映画研究同好会というサークルの仲間だ。ただし、二人きりで話をしたことは一度もない。
「ああ、悪い、お願いがあって」
「お願い?」
「ちょっと上がっていいか?」
「えっ、ま、まぁ、いいけど」
隆敏が頷くと、飛朗斗は靴を脱いで部屋に上がった。
六畳一間の和室の部屋に、敷きっぱなしの布団と、パソコンでの作業をするためだけの小さなテーブルがある。
飛朗斗はそこに腰を下ろした。
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