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 一瞬、沈黙があった。映像の中の『母さん』の表情は変わらなかったが、目が質問の意図を探ろうとしているように見えた。やがて彼女は口を開いた。 「一般的に、(ヒト)社会における『家族』の定義は、あいまいです。法律的な結びつきをあらわすには『親族』などといい、厳密な定義があります。  家族は親族を含みますが、主に血縁者や養子関係にある者が、ひと所に集まった集合を指します。住む場所が離れていても、認められた者同士であれば、それは家族です」 「法律的って、どういう意味? 他に何があるの?」 「残りは生物学の話です。法律が定義した結び付きというのは、あくまで手続き上の、古めかしく言えば、書類上で関連があるかの話になります。  でも生き物として見れば、違います。父親とその息子、母親とその娘には遺伝的なつながりがありますよね? けれど父と母を比べてください。この二人は婚姻の契約で結び付いていても、生物学上は赤の他人なのです。  ただこのふたりは同じコミュニティで生活する事を選択した。この事実だけがあります。これが家族なのです」 「人間はどうして家族を作ろうとするの?」 「人が狩りをしていた時代から、群れることは生存の確率を上げる最良の手段だったからです。  彼らは体の大きさや力で負ける獲物を倒すため、数で立ち向かいました。時には群れの一部を犠牲にしてでも、残りが生き残りグループとしての全滅を避ける道を選びました。  そうした生命の知恵が、家族という集団の行動を生み出した――まあこれはあらゆる生き物が持つ性質でしょうけれどね」 「そっか……うん。ありがとう、母さん」  渚は複雑な表情でうなずいた。 「渚さん。質問はもうひとつ、ありそうですが」 「うん、実は、昨日僕が見たニュースっていうのはね……」
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