雨くんと狼くんが

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雨くんと狼くんが

「なんて美しい……」  半分の少年が障子を開くとそこには絢爛豪華な庭が現れた。  煌びやか、という意味ではないにしろ色とりどりの花が織りなす豪華さはそれに匹敵するだけの美しさだった。緑の中には赤も白も、青や黄、紫の花までがあるがどれも秩序をもって植えられているお陰で目にうるさくもない。植物が〝豪華〟であるなんて、雨の目には初めてのことだった。 「この庭は特別なんだ」 「その方にとってですか?」 「いや、この庭自体は鬼様のものではない。今も管理しているのは元の持ち主の一人だ」  歩き始めた少年の後に雨も続く。ほんの数歩進んだ頃には布団の上で感じていた花のにおいなど比べにならないだけの濃さに変わり、同時に確認出来た花の種類も増え雨の心は躍った。  こんなものは見たことがない。少し進むと水の音が聞こえ始め、元を探すと共に花に囲まれた道が開けた。そこには池がある。丸い形で幾つか並んで、その内の2つに橋が架かっていた。  その池を囲むように植えられた花や木が、この光景を更に浮世離れさせている所為で雨の目に映る世界に豪華さを増していた。  本当に、絢爛なのだ。並ぶ色の計算も含んでのことなのかもしれない、一糸乱れぬ美しさの圧が、この世のものではない方が納得がいく。 「あちらにいらっしゃる」  ぴたりと足を止めた半分の少年は探す素振りもなく前方へと指をさした。けれど雨の視界の中には人影らしきものは映らない。背丈が足りないせいかもしれないと雨が半分の少年の隣に並んで背伸びをし、先を覗き込むと少しして赤い橋の右手側、紫と青の花の中から人影が立ち上がった。  周囲の花に負けないだけ美しい着物と、その頭部の白い髪、とても背の高い青年だった。まだ遠目で、雨の目にははっきりとした彼の表情は読み取れないが。  ここから見る雨の目ではどんな顔をしているのかもわからない。しかし、立ち姿が美しいと思った。その様子がとにかく繊細で、花の中にいて絵になる儚い美しさがあった。人ではないからなのかもしれないが、この絢爛豪華な庭園に異質感なく佇んでいる。  けれど、先程から半分の少年は言っている。ここの主で雨を救った人物を、「鬼様」と。  彼が鬼なのだ。あの、悪名高い鬼の一人なのだ。
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