宦官は永遠の愛を王に捧ぐ

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 ***  長い戦が終わった。  鳳寿は愚王を討ち、新王を名乗って即位した。  不穏分子はそこかしこに燻っているものの、形ばかりの平穏が訪れたのだ。 「後宮など、諸悪の根源だ」  焼け焦げた前王の執務室に代わり、新たに王の執務室となった部屋で、鳳寿は忌々しげに吐き捨てた。 「……まぁ、以前の有様を知る者としては、おおむね同意しますが」  そう言いながらも、華英は渋い顔で首を傾げて意見する。  華英は、戦乱の最中、片時も鳳寿の隣を離れず、血の中で馬を駆り、夜を徹して戦略を練り、共に勝利への道を走り抜けた。  そして、鳳寿が新王として即位すると同時に勅命を受け、宰相となっている。  個の圧倒的な武力で戦力の差を握り潰し、凄まじい速さで国土を制したとして恐れられている王に、まっすぐ物を申せる数少ない人間だった。 「けれど、正しい血筋の王の子が居なければ国が荒れます。後宮は必要悪でしょう」 「うまく使えれば、な。だが、後宮が正しく機能する可能性はほとんどない」  人間の欲深さと堕落の容易さを嘲り、鳳寿は淡々と暗い未来を予想する。 「後宮は私欲に溺れた化け物の巣窟となり、腐敗は表に波及して、やがては宮廷までも再び血と毒に塗れることになるだろう」 「鳳寿……」  華英は痛ましげに眉を寄せた。  かつての透き通る理想を胸に抱き、信じる道を駆け抜けていた溌剌とした青年は、もうどこにも居ない。  この世の醜さを直視した瞳は暗く翳り、己の手で流した血を吸って心は重く沈んでしまったのだ。  けれど。 「だが、……そんなことは、させん」  ポツリと呟かれた鳳寿の言葉に、華英は目を見張り、そしてゆるりと頬を緩めた。 「この国を、俺は、一から作り直すのだ」  鳳寿の黒い瞳にはぎらつく夏の太陽のような光が宿り、生気が蘇っていた。  まるで、希望に燃えていた若き日のように。
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