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「決めたよ、華英」
ある夜。
城下を視察に出かけ、夜遅くに執務室へ戻ってきた鳳寿は、覚悟を決めた声で言った。
「後宮は、残す。人質の住まいとしてな」
うっそりと笑った鳳寿に、華英は片眉を上げて詳しい説明を求めた。
その話題を、鳳寿はずっと避けていたはずだった。
ある程度宮廷を整え、もう目を逸らせないところまで来ていたので、近々話さなければ、と華英も思っていたのだが。
「後宮は王の『妻』を入れるところでしょう。人質とは、また物騒な。……どういう意味です?」
「有力な家の娘をまとめて入れられる、素晴らしい制度だと気づいたのだ」
素晴らしい気づきだった、と大袈裟に両腕を広げて見せる鳳寿に、華英は柳眉を顰める。
「……人質としては、弱いでしょう。どの家も、後継にもならない娘の命など、大して重いと思っていませんよ」
あっさりと問題点を指摘すれば、鳳寿も「そうだな」と同意しながら、狡猾に笑みを深めた。
「娘だけでは弱い。だから、各家の正妻も、娘の世話係の名目で人質として入れようと思う」
人妻を後宮に入れるという、鳳寿の突拍子もない思いつきに、華英はぽかんと口を開けた。
「正妻は、家と家の結びつきとして嫁いでいる女達だ。何かあれば実家が黙ってはいまい。……女達は、武力を持たず、か弱い。扱いやすい人質だしな」
ははは、とどこか自虐的に声を上げて笑いながら、鳳寿は椅子に座る。
酷く疲れた様子で深いため息をつき、鳳寿は両手で顔を覆った。
憔悴した鳳寿の様子に、小さく首を傾げながらも、そっと華英は盃を差し出す。
注がれた酒気のない水を一息に飲み干し、鳳寿は血を吐くような声で告げた。
「だが、名目は後宮だ。俺は、そこに入る女達を抱くだろう。王の後宮とは、そういう場所だからな。そして俺は、子を作らねばならない。次代を任せる、優れた子を」
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