宦官は永遠の愛を王に捧ぐ

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 呆れ果てたと言わんばかりの声とともに、鳳寿が仁王立つ目の前で、部屋の戸が開き、涼やかな美貌の少年が一人現れる。  咲き初めの梅花のような少年だ。 「山猿でもあるまいに、玄関から入ってくることは出来ないのですか?」  ため息をつきながら、気怠げにかきあげる髪は射干玉の黒。  春夜の闇を紡いだような髪が、指の隙間からこぼれ落ち、清婉な色香が匂い立つ。  普通の男であれば、あらわになった白い首筋に釘付けとなっただろうが、首も座らぬ幼い頃から華英を見慣れた鳳寿は、ただ快活に笑うだけだ。 「庭を通った方が早いだろう」 「あなたは礼儀作法を一から学び直すべきですね」  侮蔑も露わに言い放つ少年に、鳳寿は堂々と胸を張る。  少年ながらも鍛え上げられた肉体に、彫りが深く整った顔立ち、威風堂々とした振る舞いが相まって、まるで一国一城の主のような威厳である。  たとえ会話の内容は、お小言に対する子供じみた反論であろうとも。 「なに、やろうと思えばできるさ」 「じゃあ我が家でも心がけてください」 「俺とお前の仲だ、気にするな」 「……会話になりませんね」  うんざりと首を振る華英に、鳳寿は楽しげに問いかけを重ねる。 「そんなことより、華英よ。お前の試験はどうだったのだ」 「もちろん首席合格ですよ。胡家の者として当然です」  澄まし顔で答える華英に、鳳寿は明るい歓声を上げた。 「さすがは俺の華英だ!十四歳での首席は史上最年少だろう!」 「……あなたのではありませんし、胡家に生まれたからには、この程度で喜んでいては恥です」  つん、とそっぽを向く華英の頬がわずかに赤らんでいる。  まっすぐな鳳寿の称賛に照れているのだと察し、鳳寿はさらに笑み崩れた。
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