93人が本棚に入れています
本棚に追加
「ともに王を助け、国のために尽くそうじゃないか」
「ふん、武の頂点を取ってから仰いな」
「おう、待っていろ」
自信満々に胸を張る鳳寿に、華英は口元を緩める。
鳳寿の思い描くこの国の未来があまりに清々しいものだったので、不覚にも華英の心まで軽やかに弾む。
「……まぁ、あなたと協力するのも吝かではありません。私はさっさと上に参りますので、あなたも早くいらっしゃいな」
「おう、どちらが先に頂点を取れるか競争だな」
「ふふっ、それは勝負になりませんね」
「はん、言ってろ」
軽口を叩き合いながらも、二人の瞳は煌き、弾けるような笑顔を交わしていた。
輝かしい将来を信じて。
未来への希望に浮き立つ若い少年達はまだ知らなかった。
権力とは欲に塗れたものであり、玉座とは血に穢れたものなのだと。
そう知っていれば、鳳寿は決して剣をとらず野山を駆けて過ごし、華英はひっそりと湖のほとりで詩を詠んで暮らしていただろう。
大人たちに守られていた綺麗な少年達にとっては、誠に信じがたいことに。
繁栄と平和に浸りきり、建国王の教えを忘れた国の政治は腐敗し切っていた。
この国で、王は国のために生きてはおらず、国は民のために存在してはいなかった。
政治を動かしているのは、民草を思う王と心正しき官吏などではない。
政の中枢を牛耳るのは強欲な汚吏で、王の喉元を押さえ込んでいるのは血の紅を差した妃だ。
権勢を望む身勝手な汚吏達は贅沢を喜びとする愚かな妃と結びつき、妃らの実家と繋がって、私服を肥やすことに専心している。
それを知ってなお、少年達は国のために尽くすのか。
否。
彼らは国に絶望し、そして作りかえようと決めるのだ。
彼ら自身の手で。
最初のコメントを投稿しよう!