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「くくっ、この状態で、どうやって?傷を負い、手枷と足枷をはめられ、獣のように繋がれている。お前、俺を嗤いにきたのか?……冗談も大概にしろ」
憎悪すらも混じった暗い声で、鳳寿は吐き捨てた。
「ここは、次期宰相と呼び声が高い俊才様が来るところじゃない。さっさと帰れ……お前は、体制側の人間なのだろう?」
この国の腐敗に憤った鳳寿は、何度も王へ進言しようとした。
けれど全ては、王の側近達の手によって握り潰された。
その一人は間違いなく、現宰相の副官として宮廷で辣腕を振るっている華英なのだ。
「居たくて居る訳がないだろう。出ようにも牢の鍵がないんだ。耳障りな冗談は止めて、今すぐ出て行け」
いっそ嘲るように、突き放した言い方をする鳳寿に、華英は傷ついた表情を見せる。
しかし一瞬俯いた後、華英はすぐに平静な顔を取り戻した。
「鍵ならありますよ、ここに」
ちゃりん、と軽い金属音とともに現れた武骨な鍵束。
優美そのものといった風情の華英が手にするにはあまりに不釣り合いなそれに、思わず鳳寿は唖然とする。
「どこからかっぱらってきたんだ」
「あなたが気にする必要はありません」
澄ました顔で答えて、華英はあっさり鉄格子の中に入ってくる。
不自然な体勢で座り込んでいる鳳寿の前に膝をつき、華英は眉をひそめる。
「随分な深傷を……早くこの不衛生な場所から出て、手当てをせねば」
「だが、手枷と足枷がある。随分と警戒されてしまったんだ」
おどけた顔で手足を揺すり、ジャラ、と鈍い金属音を絶てて見せれば、「何を諦めているんだか」と蔑みの目で鳳寿を見て、華英は鼻で笑った。
「あなたが、癇癪持ちの昏君の前で暴れるからでしょう。……まったく、あなたもたいがい、相変わらず後先考えない馬鹿者ですね」
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