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「華英?」
華英が仕えているはずの君主を昏君と言い切ったことに驚いた鳳寿は、次の瞬間更なる驚愕に目を見開いた。
「それに、見くびらないでください。枷の鍵もありますよ」
「なっ!……むしろなんであるんだ?王の部屋に忍び込んだのか!?」
己に剣を向けようとした鳳寿へ激怒した王が、己の手自ら嵌めた枷の鍵。
王が懐にしまいこんだはずの鍵を取り出した華英に、鳳寿は呆れて小さく笑った。
「華英、相変わらずお前は、まるで奇術師のようだな」
「恐れ入りなさい」
思い返せば、幼い頃から手先が器用で、金庫の鍵を開けるのが得意な奴ではあった。
風が吹けば散ってしまう花のような儚げな風情でありながら、したたかで意地汚いところも多かった。
敵にまわったと思っていた幼馴染が、己を助けるために奮闘してくれたことを察して、鳳寿は久々に心からの笑みを浮かべる。
わずかな灯の中でも手際よく解錠しながら、華英は真剣な声で囁いた。
「拷問好きな王の残虐性に助けれました。その場で斬り殺されていたら、どうしようもなかった。……裏から出ましょう。外に馬がつないであります」
「だが、……逃げても、今の俺では故郷までお前を守りきれん」
自由になった手足を軽く動かした鳳寿は、不自然に固まった筋肉と痛む傷に顔を顰める。
「……華英よ。助けてくれたことは礼を言う。だが、お前は一人で逃げろ。俺はどこかに隠れ、隙を見て」
苦渋の顔で言い募る鳳寿を、華英はうんざりと遮った。
「何を弱気になっているのですか。あなたには、利き腕が残っているでしょう?」
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