宦官は永遠の愛を王に捧ぐ

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 あの夜。  愛していると告げたことが、そもそもの間違いだったのだろう。  だが、たとえ分かっていても、俺はきっと同じ過ちを繰り返すのだ。  ***  楊鳳寿は、国一番の武家に生まれた。  楊家は、二百年前の戦乱の時代、天下に武勇を轟かせた大将軍にして、王が最も信頼していた王弟・楊煌明を始まりとする、名門中の名門だ。  もっとも、正室腹の子とはいえ、第三子であった鳳寿に家を継ぐ予定はなく、一族の他の人間達と同じように武人となり、国に仕えて生きるはずだった。  鳳寿は生真面目で、高潔だった。  正しく生きることを何よりも大切にしていた。  民のために、国のために、王のために。  鳳寿にとって、それは全て同じ意味であった。  王とは国のために在り、国とは民のために在ると信じていたから。  だから鳳寿は王に仕えようと思い、武官を志したのだ。  十五の年。  鳳寿は国の武官登用試験に臨んだ。  物心つく前から、一流の武人たちを遊び相手とし、木の剣を振り回していた鳳寿にとっては、国内の実力者達による実技試験すら児戯にも等しかった。  あっさりと首席合格した鳳寿は、自宅の正面に屋敷を構える幼馴染の家に向かった。 「華英、華英よ!合格したぞ。もちろん首席だ!」  屋敷に招き入れられるやいなや、鳳寿は庭へと駆け出し、晴々とした声で宣言した。  無造作に束ねた黒髪を振り乱し、庭から友の部屋に向かって朗々と告げる。 「俺は約束を守ったぞ。お前はどうだ、華英」 「……うるさい人ですね、あなたは」
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