4話 早すぎる再開

1/1
前へ
/6ページ
次へ

4話 早すぎる再開

「アーサー達に捨てられたからって、もう違う男を見つけたの? ふふ……本当に(ビッチ)ね、イザベル」 「サクラ……あんた、そんな事を言うために、わざわざこんな場所まで来たって言うの!?」 「もちろんそれだけじゃないわ。アーサーを立てて、あなたを追放したけど、やっぱりそれだけじゃ私が安心できないのよね……お腹の子供(この子)と私のために、ね」 「……お腹に赤ちゃん!? だ、誰の子供がいるって言うのよ、サクラ!」  もしかしてアーサーの子供なの?  いや、そんなはずは無い。時間的に無理がある。  わたしとアーサーが婚約をしたのは一か月前。 「そのお腹にいるのは誰の子供なの……」 「さあ、誰かしら? そうねぇ……お父さんは五人の誰かだと思うよ……うふふ」  愛おしそうに、サクラはお腹を撫でているけど……ってぇ、五人の誰かが父親!?  その発言から推測するに、サクラは五人と関係を持ったってことになる。 「ねえ、いつから五人とそんな関係になったの!? あんた、こっちに来て一年も経って無いでしょ!?」  主人公補正で、アーサー以外の王子たちと関係を持った可能性はある。  でもアーサーは、サクラじゃなくわたしの事を選んでくれていた。 「あはは! またそんな悔しそうな表情して……ああ〜いいなぁ……あなたのその顔を見てると、本当にゾクゾクしちゃうわ!」 「笑って無いでちゃんと答えなさいよ、サクラっ!」 「……そうねぇ、私がこの世界に来て直ぐくらいだったかなぁ。五人と関係を持ったのは……うふふ」  サクラの言葉に、わたしの胸が張り裂けそうになった。  それと同時に、わたしの中でサクラに対して怒りが込み上げてくる。 「あら、ショックだった? あはははは! ねえ、ショックだよね。好きになった男の人に裏切られた気分はどんな気持ちなの?」 「……どんな気持ちかって? そうね、今わたしはあんたを思いっきりぶん殴りたい! そんな気持ちよ!」  今は全身全霊を込めて、サクラの顔面をぶん殴りたい気分だ。 「あっそ。だったら掛かって来なさいよ、イザベル。どのみち私とお腹の子……アーサー達と幸せに暮らすには、あんたが邪魔なんだしね!」  サクラの顔つきが変わった。  向こうは本気で、わたしを殺しにくる気なんだろうけどね。  彼女がわたしを倒しに来たことくらい、分かってた。  こうやってサクラと会った時点でね。 「いいわよ、サクラ。あんたが望むんなら、正々堂々と決着をつけてやるわ」 「あはははは! 正々堂々がいいわよねぇ……あなたが私の可愛い下僕(ペット)に勝てたら、考えてあげてもいいわよっ!」  サクラの叫びに呼応するかのように、森の上空から響く不気味な咆哮がした。  この世界に来て、初めて聞く不快で生き物の鳴き声。  その声は聞いた人を不快で不安にさせる。  ズンと、地鳴りをさせてそいつはサクラの横に降り立った。  黄色く見開かれた大きな瞳、爬虫類のような顔つき。  蛇のように長い黒い身体に太く短い四本の足元。  びっしりと全身を覆う頑丈そうな鱗と、四枚の羽根。 「なによ……これ……?」 「紹介するわ、ユキ。この子は私の忠実な下僕、ファフニール……さあ、私の親友に挨拶してあげなさい」  サクラに従うように、その生き物は再び吠えた。  こんな生き物を見たことが無い。  と言うか、サクラはこんな怪獣みたいな化け物をどうして呼べるの!? 「って、リョウマ!?」  さっきまでずっと黙ってたリョウマが、わたしの前に歩み出た。  もしかして、わたしをこの生き物から守ってくれるって言うの? 「なによ、あんた。まさか、ファフニールからイザベルを守ろうとか思ってるんじゃ無いでしょね? うふふ……だったら無駄な事よ。たかが人間如きがファフニールに勝てるとでも――」  サクラが喋ってるのを気にする様子が無いみたい。  リョウマは一歩一歩と前に歩いている。 「ファフニール……全長十二メートル。全高一メートル二十センチ、体重約五トン。  ドラゴンの中でも気性が荒く、一度暴れだすと手がつけられない。  脚の爪は分厚い鋼鉄すら紙のように容易く切り裂き、吐く炎はオリハルコンすら溶かすと云う……  高い適応力を備えていて、あらゆる環境でも生きていける。  好物は人間のはずだが、その餌である人間に従うとは興味深い……」  あ、あれがドラゴン……あんなに禍々しい生き物は、人生の中でも初めてだ。  と言うか、さっきまでほとんど喋らなかったリョウマが、あのドラゴンを見たらすごく喋り始めだしてる。  無口な人って思ってたけど、なんでこんなにドラゴンに詳しいのよ?  喋りも饒舌だし……もしかしてドラゴンオタクとかだったりして。 「攻撃対象確認……これよりドラゴンを駆逐開始する」  リョウマは駆け出した。  サクラの横に立つドラゴンに向かってだ。  駆逐するとか言ってたから、本気で倒す気でいるんだ。 「無駄を承知でくるんだ。うふふ……じゃあ望み通りあんたから消してあげるわっ!」  それは一瞬の出来事だった。  分厚い巨大なタイヤを思いっきり叩いたような、重く鈍い音が聞こえたのと同時に、ドラゴンは後方へと吹き飛んでいく姿があった。  バキバキと木々をなぎ倒す音だけが聞こえている。  わたしは衝撃すぎて言葉も出ないでいた。  まるでバットを振るみたいにして、人間が巨大生物を吹き飛ばすなんて有り得ない光景を見たからだ。  リョウマの表情は、どこか不満そう。 「……やはり硬いな」  リョウマはぽつりと呟くと、ドラゴンが吹き飛ばされた方向へと走りだし、森の中へと消えていった。 「さ、これで前座はいなくなった訳だし……今度こそ正々堂々と勝負できるわね、サクラ!」  過程はどうあれ、結果的にドラゴンはいなくなった。  サクラも驚いてるのかと思ったけど、意外なほど冷静な表情を浮かべている。 「……どいつもこいつも、本当に思い通りにならねぇなぁ……頭にくるなあ、本当にっ!」  サクラは叫びながら頭を掻き毟りだした。  きれいな髪をぐしゃぐしゃにして振り乱してる。 「あんな下僕(ペット)に頼ろうとした私もバカだったわ。いいわ、もう……私が直々にあんたを殺してあげるわ」  わたしを真っ直ぐに睨みつけてる。  ドラゴンのように大きく見開かれた瞳で、だ。 「やれるもんならやってみなさいよ、サクラ。そんなに簡単にやられるわたしじゃないわよ!」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加