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6話 ドラゴンを倒した女
「で、何があったんです?」
「……いや〜……そのなんて言えばいいのかしら、ね? あははは……」
真面目な顔でキャリアはわたしを見てる。
笑って誤魔化せるわけがないわよね。
わたしの服はボロボロだし、傍らにはドラゴンの死体が転がってるんだしね。
謎の男の人とサクラが消えて直ぐだ。
森の中から、ドラゴンの返り血を浴びたリョウマが戻ってきた。
それを見て理解した。
わたしの前の現れたドラゴンは、やっぱり別のドラゴンだったということになる。
リョウマは何も聞かないし、言ってこなかった。
しばらくまた沈黙が続くかと思ったところに、キャリアと他の冒険者の人たちが数人やってきた。
拐われたお嬢さんと一緒に。
で、今わたしは問い詰められているところなのである。
「え……えーとですね……これは……」
「うん、これは何かって聞いてるのよ?」
口調は優しいけど、キャリアの目が笑ってない。
リョウマ以外、全員が怖い顔してる。
あ〜……昔学校の教員室で、先生達がこんな怖い顔をしてたなぁ。
めちゃくちゃ怒られた記憶があるんだけど、今の雰囲気はそれに近いものがある。
正直に言うか。
まあ、わたしが倒したとか言っても信じてくれないだろうけど。
「……じ、実はそこのドラゴンは、わたしが倒しちゃったわけでして……あは」
全員がざわついた。
怖い表情が驚いた表情へと変わったのが分かった。
「倒したって……これをあなたが!? 本当に……?」
「ええ……まあ……はい……」
まあ信じられないわよね。
わたしにだって信じられないんだから。
キャリアは何かを確認するようにリョウマの顔を見た。
リョウマは無言で首を振っている。
自分が倒したドラゴンじゃないと否定するように。
再びわたしに顔を向けたキャリアの目が怖い。
「す……すごいじゃない、すごいすごいわよ、ね! みんなもそう思うでしょ!?」
「おおよ! ドラゴンなんてそうそう簡単に倒せる魔物じゃねーのによぉ。それをこの嬢ちゃんが倒しちまうなんてなぁ!」
うわぁ……咎められるかと思っていたけど、その反応は予想外だった。
みんな思ったより、すごいテンションが上がってるよ。
「……あの、ドラゴンを倒すってそんなに凄いことなの?」
「当たり前じゃないですか。
ドラゴンなんて、一流の冒険者が装備と準備をしっかりして、作戦を立てつつようやく勝てる相手なのよ? それを何の武器も作戦も無しに倒せるって普通じゃないんです。これは誇ってもいいことよ」
「そ……そうなんだ。えへへへ」
「すごいってものじゃありませんよ。まるで昔の物語に出てくるドラゴンスレイヤーみたいです」
褒められて悪い気はしないな。
この場にいる冒険者達が口を揃えて、ドラゴンの強さを語っている。
そんなドラゴンをわたしが倒したわけか。
あんまり褒められた事がないから、ちょっと照れ臭い
って、待って?
そこにいるリョウマはそのドラゴンをぶっ飛ばしてなかった?
「あの、リョウマも強いんじゃないの? もう一匹いたドラゴンを倒したんだと思うけど……?」
「うん? ああ、あいつも別。ドラゴンを倒せる武器持ってますからねえ。それに彼、ああ見えても一流並の冒険者だからね」
「あ〜そうなんだ」
あの仏頂面の彼が一流並ぼ冒険者。
たしかに大きなドラゴンを野球のボールみたく軽く打ち飛ばしたから、キャリアの言ってることは本当なんだろう。
「ねえ。それよりもあなた……これからどこか行く宛でもあるの?」
「行く宛……?」
王都から追放されたわたしに戻る場所なんて、今は無いし、戻れる保証もない。
「う〜ん。あなた、貴族でしょ?」
その言葉に、わたしはドキッとした。
犯罪者や魔物の巣窟と化した『魔女の森』にいる人間がまともな訳がない。
ましてやわたしは令嬢だ。
何か理由が無いと、好きこのんでこんな危険な森にくる訳がないと、普通ならそう考える。
それで無くても、わたしは王都から追放された身だ。
懸賞金とかはかかってないと思うけど、犯罪者扱いされる可能性がある。
「……まあ、そのなんて言うか」
「ああ、いいのいいの。あなたの身の上なんてどうでもいいのよ」
「え……それってどういう意味?」
キャリアはにっと微笑んだ。
今のわたしには、とてつもなく優しく暖かい微笑みにみえる。
「だからですねえ。もし行く宛がないなら、アタシ達が拠点にしてる街に来ないかって言ってるんですよ」
「……それって勧誘?」
「あはは。正直に言えば、あなたの戦力は喉から手が出るほど欲しいわよ。でもね、そうじゃないの。
アタシの悪い癖でね。単純に困ってる人を放っておけないなーってだけ。だから一緒に来ません?」
「わたしは――」
王都以外の生活を知らないわたしが、この先、生き残れる自信はない。
それにわたしの目的は堂々と王都に戻りたい。
こんな知らない場所で野垂れ死ぬなんて、絶対に嫌だ。
「うん。決めた! わたし、一緒に行くからよろしくね、キャリア」
「よろしくね……って、そう言えばまだ名前聞いてないですよね? なんだか今更ですけど」
そう言えばそうだったな。
なにかバタバタとしてたから、わたしの名前を言うのを忘れてたわ。
不覚だわ、わたしとした事が。
「わたしはイザベル。イザベル・ウィルバード・ウェルブよ」
「イザベルですね。こちらこそ改めてよろしくです」
わたしの差し出した手をキャリアは力強く握り締めた。
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