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俺が魔法少女
「なんだよこれ…!」
勢いよく後退り、机にぶつかる。
床と机の脚が擦れ不快な音を立てた。
ぐらぐらと足元が揺らぐ。
今度は原因がわかる。
恐怖だ。
目線がドラゴンから離せない。
体がその場から逃げ出そうとしているのがわかる。
それなのに全身が強張り動けない。
暑くもないのに汗がこめかみを伝った。
こんな巨体が今、こちらに向かってきたら間違いなく、死ぬ。
「こぉら、落ち着くにゃ」
「んむ!」
もふぅと顔が柔らかいものに覆われる。
突然のことに尻もちをつき、手をわたわたとさ迷わせて柔らかいものをぐいっと引き剥がす。
取り戻した視界の先には俺に両脇を抱えられびろーんと胴体が伸びた黒猫だった。
「大物は倒されたってさっき言ったのにゃ。あれはもう息絶えてるから大丈夫なのにゃあ」
そう言って猫は身を捩り俺の手から抜け出すと見事に着地してみせた。
猫の言葉に僅かばかり平静さを取り戻す。
俺は尻もちをついた無様な姿勢から胡座をかき、猫を見つめる。
情けないことにまだ手は震えているが膝をぎゅっと握り締めることで誤魔化した。
「おい、なんなんだよこれ!なんで猫が喋ってんだ?しかもいつの間に教室入ってきてんだ…。あと校庭のドラコンはなんだ!」
目の前の猫に質問を投げかける声が掠れている。
口の中がカラカラだった。
そんな俺を気にかける様子もなく猫の口調はのんびりとした調子で少し腹が立つ。
「まあまあ、ひとまずこっちの説明を聞いてもらうのにゃ」
人の気も知らず艶やかな毛並みを西日に反射させながら黒猫は俺に近付き、
「端的に言うと、お前に魔法少女になって欲しいのにゃー」
と耳を疑うことを宣った。
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