ティル・ナ・ノーグの幻影

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「もう10時過ぎたか。そろそろ迎えに来てもらおうかな」  大きく欠伸をして、倉持がそう言ったときだった。  歌い疲れて黒い画面になったパソコンから音がした。  ぽろん。 「鳴ったぞ」 「どうせ広告メールだよ」西島が床に座ったまま腕を伸ばして、うたた寝をしていたパソコンのキーを叩いた。  パソコンが高らかに歌った。  ――酸化チタン。アルミニウム合金。ステンレス。  西島が跳ねるように立ち上がり、メールの保存とプリントアウトをほとんど同時に押し、震える声でメインサイトを立ち上げ、聞く。 「前後のデータから軌道要素計算」  パソコンが歌う。  ――小惑星2032LK8に捉えられ、公転。観測時の詳しい座標は別記。 「これが……20年前のフェイズ・ジェット235号の可能性を計算」  パソコンは、今度はすぐには歌わない。しばらく考え込んでから、シャウトした。  ――99%ぉ。  プリンターがきしきしと鳴りながら、恋人の船が漂う座標を吐き出した。  西島は、その数字の羅列を女の頬を撫でるように優しくさすり、かすれた声で言った。 「待たせたなあ……未希」
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