第五章 彼と二人きりで過ごす、愛しのひとときを

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「こちらのドレスは、どうでしょう? お客様の雰囲気によく似合われると思いますが」 スタッフさんがそう言って、私の身体に当てがってみてくれたのは、明るいオレンジ色をした、膝が隠れるミディ丈のドレスだった。 「綺麗な色ですね。でも、私に合うでしょうか」 「ええ、お似合いだと思います。他には、このマゼンタピンクのミモレ丈のドレスなんかもお似合いかと」 ミモレ丈とは、ふくらはぎの真ん中あたりまでを覆う長さのことで、ミディタイプよりも少し大人っぽいムードになるとスタッフさんが教えてくれた。 「他には、そうですね……、お客様のイメージには、ビタミンカラー系のお色が合うように思えるので、クリームイエローのこういったショートドレスなんかもよろしいかと」 それぞれに丈やカラーの異なるドレスをいくつか見せられて、どれにしようかと決めかねていると、「ご試着をされてみてはいかがですか?」と、スタッフさんから促されて、数着のドレスを手に試着室へ向かった。 そうして何点かを着てみて、結局決めたのは、最初に見せてもらったオレンジカラーのミディ丈のドレスで、半袖のスクエアネック(四角く開いた襟)スタイルに、スカートは太めなギャザータイプの、カッチリとした中にもちょっとした可愛らしさのあるようなものだった。 「ワンポイントに、ウエストに白の太いベルトをされると、よりオレンジのカラーが映えるかもしれません」 スタッフさんのアドバイスを受けて、腰にベルトを合わせると、確かにより色味が引き立って見えるようだった。 「素敵……。なんだか自分じゃないみたいです……」 オレンジのカラーに合う、黄味がかったアイボリーベージュのパンプスと、ベルトの差し色に合わせたホワイトの小さめのハンドバッグをトータルでコーディネートしてもらうと、鏡の中に映っているのは、見慣れない別人のようにすら感じられた。
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