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せめて少しでも沈んだ気持ちを切り替えられたらと、背負っていたリュックを下ろすと、中からいつも持ち歩いているスケッチブックを引っ張り出した。
気分転換に道行く人でも描いてみようかなと、絵になりそうな人の姿を探していると──
前方から歩いて来たスーツをスマートに着こなした一人の男性に、目が吸い寄せられた──。
「……すごくかっこいい、あの人……」
駅前にあるファッションビルから出てきた、タイトな黒のスリーピースに身を包んだその男性は、
かっちりとした三つ揃いのスーツが高長身に映えて、綺麗にセットされたヘアスタイルと相まって、思わず見惚れてしまうほどの美男だった。
歩き去ってしまわない内にと、急いでスケッチブックにペンを走らせる。
ついつい夢中になって描いていたら、
「……それは、私かな?」
と、不意に上からスケッチブックを覗き込まれた。
ハッとして顔を上げると、
今まさに描いているその男性が、目の前に立っていて、自分が描いているイラストを見下ろしていた。
「あああ、あの、すいません! 勝手に描いたりして!」
当の本人に見られてしまったことに途端に気恥ずかしさが襲い、慌ててスケッチブックを閉じようとすると、
「……その絵、もう少しちゃんと見せてくれないかな?」
と、声がかけられた──。
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