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「ですが……、」と、言いよどんで口をつぐむ。
そうは言われてもラフなスケッチでしかないし、改まってわざわざ見せるほどのものでもないからと、当惑しきりでいると、
「そこでコーヒーでも飲みながら見たいんだが、構わないだろうか?」
すぐそばにあるカフェが指差されて、いよいよ逃げ場が失くなってしまった。
「あの、えっと……」
イラストをいきなり見せてほしいと言われたことにもだったけれど、初めて会った男の人に簡単に付いて行ったりしても、果たしていいものなんだろうかと思い悩んでいると、
「私のことを警戒しているのだったら、安心していい。私は、こういう者だから」
そう言うと、スーツの胸ポケットから革張りの名刺入れを取り出して、名刺を一枚手渡してきた。
渡された名刺に目を移すと、そこには……
『(株)HASUMl 代表取締役 CEO
蓮水 陽介』
と、記されていた。
「え…HASUMIって、あの紳士服の? し、シーイーオー!?」
驚きのあまり声が裏返る私を尻目に、
「そう、その紳士服のHASUMIだ。知っていてもらって良かったよ。それじゃあ、私の身元もはっきりしたことだし、コーヒーでも付き合ってくれるか?」
話は決まったとばかりに、そう落ち着いた声音で告げると、先にカフェの中へ入って行ってしまい、戸惑いつつも後を追うしかなかった──。
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