「ダンディ・ダーリン」年上な彼と、甘い恋を夢見て

第一章 スーツをスマートに着こなした、絵になる彼

恐縮しながら、テーブルに向かい合わせで席に着く。

"紳士服のHASUMI"って言えば、全国にお店があるような有名メーカーだよね……。

この人が、そこのCEO(最高経営責任者)だなんて……。

眼前にある顔をまじまじと見つめる。

紳士服メーカーの代表ということもあって、本当にスーツがよく似合っていて、きっちりとセットされたヘアスタイルから額に落ちた前髪にも男性らしい色っぽさが漂って、本当に上から下までトータルで絵になる感じで……。それに何より、顎に添えられた手の隙間から覗く髭が……。

「……うん？ 私の顔が、どうかしたかな？」

運ばれてきたエスプレッソの華奢なコーヒーカップを指の先で摘まむと、ゆっくりと口元に運ぶ。

「……本当に、あの会社の責任者の方なんでしょうか？」

そんな何気ない仕草でさえも目を奪われてしまうくらいに決まっていて、その格好良さもさることながら、有名メーカーのCEOということも、何もかもが信じられないようで、つい独り言とも言えるような問いかけが口をついた。

「ああ、その名刺にあるように本当のことだ。ところで、君は名刺は持っていないのかな？」

「…あ、ああ…すいません！ 自己紹介が、後になってしまいまして……！」

ぶしつけに見つめた末に疑(うたぐ)るような質問をしておきながら、自分は名乗ってさえもいないというあまりの失礼さに、カバンの奥を大慌てで探ると、あんまり出すようなこともない名刺をテーブル越しにおずおずと差し出した。

「三ッ塚 鈴(りん)さんか。……フリーのイラストレーターなんだね…」

大企業の責任者の方を前にして、自分はしがないフリーでしかないことが、つくづく恥ずかしくもなってくる。

「全然大したことのない、趣味のイラスト描きのようなものなので……」

自分で言いながら、だんだんに自己嫌悪に陥ってくるようで、テーブルにうなだれてコーヒーをすすった。