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「……いい絵だよ」
口元にふっと穏やかな笑みを浮かべて言われ、ますます顔が赤らんでくる。
「……そう言っていただいて、ありがとうございます」
返されたスケッチブックを受け取ると、ページの間からくんと香りが漂ってきて、これってムスクの匂いだと思う。
ムスクのトワレは、似つかわしくはないような人が付けると嫌味にしかならないところもあるのに、この人は何て言うか似合いすぎていて……。
スーツの袖から時折り覗く、ワイシャツにあしらわれたシックなスワロフスキーのカフスボタンも、ムスクの雰囲気にマッチしていて、本当に全てが完璧で素敵で……。
「……君に、頼みたいことがあるんだが、いいかな?」
その格好の良さを穴があきそうなほど観察していた私は、急な話に思わず面食らった。
「……あっ、あの私に、どんな頼みごとがあるんでしょうか?」
HASUMIのCEOともあろう方が、私ごときに一体何を頼むことがあるんだろうと不思議にも思いながら尋ねた。
「ああ、君の絵が気に入ったんだ。だから、私の会社の広報誌にイラストを描いてもらえないかと思ったんだが、どうだろうか?」
「……えっ!?」
そのあまりに唐突な申し出に、カップを手にしたまま固まると、
「…い、いえいえ! 私のイラストなんて、そんな有名な企業さんの広報誌になんて、もったいないぐらいですから……」
咄嗟に片手を大きく振って断った──。
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