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「君の絵が気に入ったんだ。私が全面的に推すんで、是非とも描いてくれないだろうか」
「はぁ……」
紳士服のHASUMIのような大企業の広報誌に、私みたいに無名のイラストレーターが描かせてもらうだなんて、なんだか恐れ多いような気もして腰が引けていた。
「仕事があまりうまくいっていないようなことを話していたから、やってみてもいいんじゃないか?」
「はい、今は小さなイラストのカットなどぐらいしか、お仕事がないのですが……」
緊張で渇いた口の中に、ごくっとコーヒーを流し込む。
「だからこそ、それほど名前も知られてない私のイラストなどを、御社のような有名メーカーの広報誌に載せていただくのは、申し訳がないようにも思えていて……」
確かに仕事に困っているのだから、こんなにいいお話は受けた方がいいのだろうけれど、少し気後れをしてしまって、なかなか踏ん切りがつけられずにいた。
「私が好きだから、いいんだよ」
そんな心の迷いを打ち砕くように、ストレートな一言が投げかけられて、照れを感じるのと同時に思い切って受けてみようかという気持ちもにわかに湧き上がった。
「……ですが、本当に私で構わないのでしょうか?」
未だに恐れ多さが拭い切れないでいる私に、
「ああ、君がいいんだ」
再び率直な言葉が返されて、
「……わかりました」と、今度こそ決心を固めた。
「ありがとうございます。それでは、お仕事をお受けさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします」
そう肯定の返事を伝えると、深々と頭を下げた──。
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