ねえ、お父さん。

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 ねえ、お父さん。覚えてるかな。  どうしてだか聞いてみたかった。ロレックスを使わせてくれなかったことを。  もしかしたらあれはお父さんの大事なアイデンティティだったのかもしれないね。ロレックスをつけているお父さんは格好よかったものね。一流の紳士みたいだった。ロレックス以外の時計は似合わなかったよ。  だから誰にも使わせたくなかったのかもしれないね。気づかなくてごめんね。私が思う以上に重要な、そしてなくてはならないものだったのかもしれないね。  私にはなんでも買ってくれて、なんでも譲ってくれたお父さん。たったひとつだけ譲ってはくれなかったもの。それが腕時計だった。
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