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「なぁ、おぼえとる?」
久しぶりにあった弟に、まどかは唐突に質問した。
「なに?」
久しぶりにあった弟に話す話題が見つからず、先日思い出した子供の頃のことを話してみた。
「まあくん、小学校に入る時お母さんが入院しとって、小学校でいるものが全部は揃ってなかって泣いとったのおぼえとる?」
「ああ、そりゃそうじゃろ。まだ小学校に入る前なんよ? ただでさえ母親が入院して家におらんのに、おまけに学校で使うものは用意できとらんし。
じゃけど、お姉ちゃんが自分のお古の赤い筆箱をマジックで黒に塗ってくれて、良かった…と思ったわ。」
「黒に塗ったのは良かったけど、ムラになって学校に持っていけるような物じゃなかったよな?」
と、笑いながらまどかは話した。
父親は会社、祖母は知り合いのところ、母は入院中…。
あの時、まどかはまだ小学4年生になったばかりだったが弟のために、いつもはけっして開けない生活費の入ったがま口を開いた。
これは緊急事態なんだから家のお金を使ってもよいのだと心に言い聞かせ、少し後ろめたさを感じながら家の近くの文房具店へ走った。
「あのー、筆箱ください。」
「これでエエかな?」
文房具店の奥さんが出してくれたのは赤い筆箱だった。
がっかりした顔をしながら、まどかは自分の筆箱ではなく弟のを買いに来たことを伝えた。
「あー、そうじゃったん。」
奥さんは納得して青色や黒色の筆箱をいくつも出してくれた。
それでも値段を聞くと結構高い。子供にしてみればとても高価に思えたので、一番安い青色の筆箱を買って帰った。
家に戻るとまどかはまあくんに筆箱を見せ、
「買ってきたよ、名前書いてあげるからな。」
と得意げに弟に言った。
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