雨は毛布

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 わたしは男の子に微笑みかけた。  そんなにミサキが好きか。そうか。  カモメになって飛んで行きたいのか。  ミサキに恋するこの子は、面白味のない男の子ではなくなった。  せいぜい、たくさんカルシウムを摂取して骨を強くして、羽を生やせば良い。  兄より長く生きて、機をうかがえ。  顔を上げると、灰色の空がわたしの息の根を止めようとしている。  濡れ毛布。  窒息する恋。  あとちょっと。  掛け時計は8時過ぎを指していた。  わたしはブランケットを自分と彼の身体に巻き付けた。  キスをしたいと思った。  だけどやめておく。  わたしはこの男の子のゴミの日を知っているんだもの。  キスをしたらきっと興味を持つ。  わたしは腕を伸ばしてタバコに火をつけた。  吸い込む。  口をふさいでおく。  キスのことを忘れたい。  音のしない雨が降り続いている。  もうすぐ止むかもしれない。  雨が止む前に帰らなくてはならない。  わたしは男の子に頼んだ。 「もう一度、手を繋いでもいい?」  この子に触られるのが、いやじゃない。  困ったことに。  ゴミ収集車が、噛み砕いて飲み下すまで。  あと少し。  わたしの汚れた手を離さないで。    
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