雨は毛布

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 僕はカモメの絵を描く。  日本画。  画材の高額さだけで滅入ってしまいそうな、僕の専攻。  カモメのジョナサンは、餌を捕まえるためには飛ばない。  骨と羽だけになりながら、ひたすらに高みを目指すのだ。  ジョナサンはきっと雨を抜けて、厚い雲を突き破って飛ぶだろう。 「馬鹿みたい。」  その女の子は切り捨てた。  暗い部屋に浮かび上がる瞳の白。尖った顎の線。 「あなた、羽を生やしたいの?そのために牛乳なんて飲むの?」  彼女の手の感触。  傷つきやすそうな、壊れやすそうな。  しまったなと思う。  男のゴミをあさるような女の子に恋をしたら、先なんてない。 「どっち側が上とか、先とか、分かると思っているの?男の人って。」  僕の心を見透かすような言葉。  それは僕じゃない、と言いたい。  上と先を目指して、この子を、おそらくは傷つけた。その男は僕じゃない。 「馬鹿みたい。」  彼女は繰り返した。  重ねた手の感触。  女の子をお持ち帰りした、なんていうよりは、手負いの小動物を保護したみたいな気持ちだ。 「泣いてるの?」  余計なことを聞くのね、と、彼女は手厳しい。(なつ)かない動物。 「雨よ。」  ひどい雨漏りだ。    
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