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女の子は窓から顔を突き出した。
僕のTシャツを着た。あまりにもか細い背中。
そのまま窓から落ちてしまいそうだ。
雨降りの朝の澱んだ光の中で。
その子は、夜の闇の中で見たときより、ずっときれいだった。
それで、僕は彼女が誰だったかを思い出した。
指導だか自慢だかをしてくれるヨシムラという准教授。その絵に繰り返し出てくる、中性的な少女。
寂しそうな目が印象的だった。
覚えている。間違いない。
でも少し前にヨシムラは、モデルを変えた。
奴はそういうタイプの男だった。あるのか無いのか分からない才能をひけらかす。女の子を取り替えたことを、分かりやすく、ひけらかす。
「あなたがカモメを描く理由が分かったわ。」
女の子は振り返った。
顔が雨で濡れている。
「ミサキに会いたいのね。だから飛ぶのね。」
そうなのだろうか。
そこまで単純な理由じゃない。
そう喉元まで出かかって、喉に引っかかる。
女の子はいっそ晴れやかに微笑んだ。
初めて見る笑顔だった。
「高みを目指して飛ぶより、ずっといいわ。あなた、いま良い顔をしていたわ。」
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