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こういうのは、良くない。
僕だって分かっている。
ナホちゃんという子だった。
名前を呼んで、と言われたから、さすがに覚えた。
ナホちゃんの肩とうっすらと脂肪ののった白い二の腕がブランケットからはみ出している。
胸の大きな子だった。
声も大きな子だった。
あんまり大きな声で喘ぐので、僕は途中で笑いそうになるのを堪えた。
そんなに盛り上げてくれなくてもいいよ、と言ってあげたかった。
僕はナホちゃんの肩を丁重に包み直すと、電車が動いているうちに帰るね、と告げた。
女の子より先にシャワーを浴びて、そのまま帰ってしまう、僕は最悪だ。
きっと今夜のうちにでも、ナホちゃんはどこかに書き込むに違いない。最低、とか、下手だった、とか何とか。
ナホちゃんの寂しそうな横顔は可愛いと思った。
誘って、キスをして、服を脱がせて。柔らかい肌に指を滑らせる。
そこまではいつも思うんだ。
もしかしたら、この子こそ、運命の女の子なんじゃないかって。
している最中に妙に冷静になる。
あとは、自分でしているのと変わらないような感覚になる。
吐き出してすっきりするかと思えば、そうでもない。
やっぱり運命じゃなかった。
そんなナホちゃんとそのまま一晩過ごすことが耐えられなくて、僕は部屋を出た。
適当に見当をつけて、駅まで歩いた。
多分、二度と使わない駅だ。
雨が降り出していた。
僕はスマートフォンをポケットに押し込む。
どんな手段であれ、連絡を取るべきではない。
決して僕のものにはならないひとに。
それくらい分かっている。
さみしくて虚しくても。
僕は自前の運命の女の子を見つけるしかないのだ。
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