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はじまりのはじまり
「こんにちわ」
「こんにちわ」
「こんばんわ」
「おいっす〜」
「やぁ」
人気なし、人望も視聴者もなし、つまらない話をダラダラするだけの雑談トーク配信。
だけど、僕の唯一の憩いの場。
仮面をかぶってピエロになれる場。
誰も本当の僕を知らないから、演者になってもそれが本当の僕だと思ってくれる。
別に騙してるわけではない。アイドルだって、俳優だって裏表がある。
仮面越しのあなたを本物と決めつけて、好意を持っては裏切られたら集団となって非難する。
そんな自分は仮面の好意をぶつけるくせに、相手には仮面を許さないファンのせいで、彼らは演じ続けなければならない。
どんな時、場所、時間でも。名前も知らない彼らのピエロにならなければならない。
幸い僕の視聴者は4人しかいないので、仮面をかぶっても脱いでも誰も気にしやしない。
ありがたいことだ。
普段は仮面を被り続け、気を使い、自我はどこか心の扉に閉じ込められている。
そんな扉の鍵を彼らは画面越しで僕にくれる。僕が僕で入れ、仮面を脱いでもかぶっても許してくれる。時には仮面をくれたりもする。
そんな空間が好きで、僕の現状の全てだった。
「今日のお題なんぞや」
「顔出し配信みたい〜」
「恋人がいるの〜??」
「いそうだよな、イケボだし多分主イケメン」
ほら、言ったろ、勝手に僕のことを捏造し、仮面をくれる。画面越しの仮面をくれる。
「僕は根暗で彼女もいませんよ笑」
「えぇ〜、ほんとかぁ?」
「嘘だ〜」
「じゃあ、かな立候補しちゃおっかな笑」
「ほんとですって笑」
「かなちゃんは彼氏いるでしょ笑」
「私タケルくん好きなの〜笑」
あっ、どうも自己紹介が遅れました。
僕はタケルという名前で配信をやらせてもらってます19歳童貞彼女いない歴=年齢のものです。
そしてこのかなちゃんは、僕が配信を始めた先月、一番最初から見てくれた子で、垢抜け方、女子の喜ぶことなど、なぜか僕が持てるようなアドバイスをくれる子です。
「なら今日は彼女の作り方の話しよっか」
「タケルモテそうだから助かる」
「童貞でも口説ける方法キボンヌ」
「かな、頑張るね!」
「えー、まずどうすればいいんだろ……。」
「話しかけ方とか??笑笑」
「たけさん、流石に話しかけることくらいは…笑」
「それな笑笑」
「流石にねぇ笑」
「えっ、あぁ、そうだよね、ごめんごめん」
「えっ、たけさん?もしかして」
「あっ、そういうこともある」
「これからこれから、かな応援してる」
「……。ふふ、ありがとね、頑張るよ」
「もう12時か、配信見てくれてありがと〜、」
「バイバーイ」
「さよなら〜」
「おやすみ〜」
「はいはーい、またね〜」
「今来たばっかなのに終わってた……、おやす〜」
「ごめんね〜、またやるから、またね」
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「ふぅ」
仮面を脱ぐため息をついた。
リアルでは疲れる仮面も、ここでは彼らがくれる仮面を演じるだけだから楽だ。それも、押し付けられるだけでなく、勝手に改竄しても許される、彼らの仮面は内面まで決めつけることはなく、画面越しの僕の声から勝手に考えた〝顔〟に関する仮面、つまりお面だけだから、好きなようにできる。
そんな世界に居心地の良さを感じ、売れない配信者をしている。
だけどそんな僕にも少なからずファンがいる…。
「ん?」
誰からも連絡が来ないから放置してたスマホが光る。
充電があるのかどうかすらわからない白いベールを被ったスマートフォンを持ち上げて画面を見ると、一通の通知が来ていた。
久しぶりに触るスマホの操作に戸惑いながらもその通知を見ると、Twitterのdmだった。
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「タケルさん、お疲れ様」
「声も良かったです、」
「あぁ、会いたい……笑笑」
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かなちゃんからだった。
よく見ると、毎回配信をやるたびにくれてたらしい。遡って見てみると毎回〝会いたい〟が最後に来ている、気づいていなかったのも悪いし、とりあえず〝ありがとう〟とだけ返信をしておいた。
間髪を入れずにすぐに通知が来たが、お腹も空いたし、眠たいのではなくご飯を食べて寝ることにした。スマホにはもう意識はなかった。
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