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ピンポーン
来客を知らせる音が、丑三つ時の部屋に鳴り響く。
「こんばんわ」
その声にドア越しからでもゾッとする。
そう、その声は一時期、彼に付き纏って逮捕された子だ。
「謝罪に来ました。開けてください。」
明らかに怪しい、こんな時間に、しかも彼のいない時間をわかってるかのように来た。
部屋には黒い積乱雲があるようで、やけに肌寒い。
日中は夏を知らせる真っ白い雲もその内面ではなにを隠し、なにを行い、なにがなされてるのかわからない。
唯一の手がかりはその白さだ。
しかし今この部屋を覆っている空気は黒い。
とりあえずドアにつけられた穴から覗いてみることにした。
「ん??」
そこにはなにもない。一条の光すら。
この時間ならなにかしら灯りがあってもおかしくない。
その時だった。、
「ねぇ、そこにいるんでしょ??」
「なんで覗いてるのに開けてくれないの??」
ゾッとするほど恐ろしい。
とりあえず警察を呼ぶことにしたその時だった。
私が携帯を取りに戻った時。
私がドアから少し目を離した時。
私がドアに背を向けた時。
カチ、カチ、ガチャ
子供の時は親が帰ってきた、という合図の音。
安堵と安らぎをくれる音だったはずなのに、
彼との同棲を始めてからもそれは一緒だった。
だって、その音を鳴らせるのは深い関係性がある方しか鳴らせないからだ。
それなのに、
それなのに、
それなのに、
身体中に震えと痺れが走り、震え上がった。
キィ〜
その音と同時に振り返る。
そこには思い出したくもない、全てを壊し、奪い、さらおうとした彼女が立っていた。
「はじめまして」
「は……うっ、、」
声が詰まり、目の前には黒い積乱雲の黒さ、冷たさが体を包んだ。
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