模範的な関係

3/6
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 彼女は金がないのだと言う。  だから、強盗に入ったのだと言う。  引っ越しの金すらないのか、と私は聞いた。  彼女は、はじめて驚いた顔をした。  当たり前だろう、自分のそんな私生活を、私が知ってる訳はないと思っていただろうから。  私は言った。私に何をしてもいいから、どうか、引っ越さないで欲しい。私の傍にいて欲しいと。  戸惑いながら、彼女は拒んだ。逃げなければいけない差し迫った事情があるのだと言った。  なので私は、一昨日の夜、自室で男を絞殺した件かと、尋ねた。  彼女は、さらに驚いた。  でも私からすれば、当たり前のことだった。その夜も、私は彼女の声を、つまりはことの一部始終を床に耳を付けて聞いて居たのだから。  彼女は、ただただ驚いた。  唖然とした彼女の前で、そのとき、私の目に入ったのは、痴漢対策に身につけていたスタンガンが、鞄からたまたま畳に転がっている光景だった。私は咄嗟にそれを手に取った。  形勢は逆転した。  そして、いまや、手錠に繋がれているのは彼女だった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!